2024年4月16日(火)

プーチンのロシア

2023年5月16日

 多くのアフリカ諸国は冷戦時代、ソ連による政治的、経済的支援を受けた経緯があり、南アについてもそれは同様だ。現在政権を握る与党「アフリカ民族会議(ANC)」も、ソ連からの支援を受けていた経緯がある。欧米による植民地支配に苦しめられたアフリカ諸国が国連などの場で、ロシアに同調する姿勢を示すのは決して故なきことではない。

 ロシアがウクライナに侵攻した直後に開催された国連総会の緊急特別会合で、ロシア軍に対する「即時かつ無条件の撤退」などを求めた決議では、賛成票を投じなかった国の実に半数がアフリカ諸国だった。

食糧を武器に〝恫喝〟

 しかし、そのようなソ連、ロシアとの歴史的な結びつきだけがアフリカ諸国をロシアになびかせているわけでは決してない。

 米シンクタンクの調査によれば、サハラ砂漠以南のアフリカや南アジアを中心とした世界の少なくとも36カ国が重大な飢餓に直面しており、その主要な理由がロシアによるウクライナ侵攻が食料や燃料価格高騰を招いたことにあるという。また米ワシントンを拠点とする「対アフリカ戦略研究センター」によれば、アフリカにおいて消費される穀物の30%はロシアから輸入されており、その95%が小麦だ。アフリカ諸国はさらに、ウクライナ産の穀物にも多く依存している。

 ロシアはウクライナに侵攻し、農地の占領や地雷の敷設、さらにウクライナ南部の黒海周辺の主要港の占領や黒海を封鎖するなど、ウクライナ産穀物の輸出を妨害する戦略をとっている。ロシアは昨年7月には、トルコと国連の仲介で黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出に合意しているが、一方的に履行を停止するなどしてウクライナと関係各国を揺さぶっている。合意期間は断続的で、期限が近づくたびに関係各国は再交渉を強いられる構図が生まれている。

 そのような中で、ロシアは自らがアフリカに穀物を供給する姿勢を繰り返しアピールし、逆にウクライナやロシアに経済制裁を科す西側諸国を非難し続けている。アフリカ諸国としては、食糧という文字通りの命綱をロシアに握られた格好で、その意向をむげにはできない。穀物輸出をめぐる次回の合意期限は5月18日に設定されており、これはG7サミットの開幕前日にあたるため、その動向が注視される。

武器や傭兵も

 昨年3月以降、ロシアによるウクライナ侵略を非難する趣旨で実施された5度の国連決議において、すべての決議で棄権、または反対したアフリカ諸国は中央アフリカ共和国、マリ、スーダンだったという。カーネギー国際平和基金によれば、これら3カ国はいずれも政権基盤が弱いが、ロシアによる軍事支援やロシアの私兵集団「ワグネル」の支援を受けるなどして、政権を維持している国々だという。

 例えばスーダンでは、ロシアから軍事支援や政治支援を受けることと引き換えに、軍がスーダン国内に埋蔵された金への利権をロシア側に付与していた実態が米CNNの調査で判明している。この動きは2014年のロシアによるクリミア併合後に活発化し、その後国際的な制裁を受けるロシアがスーダンの金を調達するケースが増えたという。マリや中央アフリカ共和国においても、国軍に対するワグネルの関与がかねてから指摘されている。

 ソ連崩壊後、その後継国のロシアはアフリカ大陸の大半から軍事支援の手を引いたが、2000年に発足したプーチン政権は旧ソ連時代の軍事支援国との関係回復を再び進めた。ロシア政府は18年にはギニア、ブルキナファソ、ブルンジ、マダガスカルと軍事協定を結び、イスラム過激派に手を焼くマリ、ニジェール、チャドなどがロシアに軍事支援を要請した。ロシア製の武器に頼る国も少なくなく、アフリカ市場で出回る武器の約半数がロシア製といわれる。

 特にアルジェリア、エジプト、アンゴラがロシア製武器を多く調達している。これらの国の多くは、国連での対ロシア決議で棄権や反対するなど、ロシア寄りの立場を示している。


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