2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2023年5月18日

一時的に売上は落ち込むが、最後にはそれ以上になる

 付加価値は、巷の商店街で売られているパン、文房具、服なども含む。日本全体で付加価値を付けた価格で販売できれば、最初は市民の懐も厳しくなるだろうが、企業は売上が増え、賃上げが容易となり(「人件費はコスト」と考える経営マインドを変える話はここではしない)、消費が増えて企業はより稼ぐという、日本銀行が思い描いていた好循環に入る。

 もちろん、日本人も「高いから買わない」ではなく、価値を評価するマインドを持つことも大事だ。趣味にならいくらでもお金を使うというのが日本人なら、問題ないはずだ。

 香港でアクセサリーを中心としたブランドを立ち上げた知り合いがいる。全てハンドメイドで、質も良く、デザインも独創性にあふれている。

 ただ、知名度がないこと、草創期はキャッシュも多くなく、銀行からの借り入れも簡単なことではないから、経営上、売上を出すため、価格設定を低めにしていた。しかし、香港は日本とは違いインフレ基調の街で、特に家賃は世界トップクラスの高さを誇る。コロナ前のテナント料は、右肩上がりで、家賃の上昇に耐えられなくなり値上げを実施した。

 「値上げして客が離れていくのが怖くて、価格転嫁できていませんでしたが、インフレに耐え切れず値上げに踏み切りました。正直に言えば、一時的に売上は減少しましたけど、今は客も戻りましたし、売上も利益も伸びています」

 理由は、値上げ以前から常連客を大事にし、良い関係を築いてきただけでない。適正価格ではなく、付加価値を付けて販売したことにある。原材料の良さや商品にまつわる話などを商品にストーリーを持たせた。

 それは、新規顧客にとっては「安かろう、悪かろう」の反対で、「高かろう、良かろう」という印象を与えた。手に取れば質の高さもわかるため、そのまま購入につながった。

 「伝えるべきことを、ちゃんと伝えると、新規も常連客も商品の良さを理解してくれました。あと、ディスカントセールも時々していたことから、『ディスカウント待ち』の客もいたんです。セールを止めたことで、それがなくなりました。ディスカウントがブランド価値を棄損していたことにも気づきました」

 この方の話を聞くと、付加価値の最大の問題は、経営者の値上げによる客離れへの「恐怖心」と言えそうだ。日本が高度成長期の成功体験から抜け出せなかったことが経済を停滞させたと言われている。人間は変わることを恐れる生き物であり、その指摘は間違っていないが、「客は戻ってくるはず……」と信じる勇気も必要だろう。 

 野球の大谷翔平選手がワールドベースボールクラシック(WBC)の決勝で「憧れるのをやめましょう」と語っていたが、まさに日本人気質を映し出しているからこそ、世論で大きな反応があった。ただ、外国との競争なのだから、日本人の控えめな性格を考慮する「うちの商品の方が全然、優秀」というぐらいの強気の感覚で、価格設定をするくらいの方がちょうどいいかもしれない。


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