2024年4月21日(日)

Wedge REPORT

2023年5月23日

まず社員に示すべきは
目指すビジョンと人材像

「AIを事業の中核に位置付ける」。18年、会社のトップ自らが宣言したのは西川コミュニケーションズ(名古屋市)だ。同社は110年以上の歴史を持つ印刷会社で、かつては電話帳などの印刷事業が事業の中核だったが、携帯電話やインターネットの普及など、時代の変化に危機感を募らせていた。社長の西川栄一氏は、今後はAIによって社会が大きく変化すると感じ、事業の中核を転換する決意をした。

 だが宣言当時、約400人の従業員のほとんどが文系出身で、ましてAIに関する専門家は1人もいなかった。人事広報部課長の神谷昌宏氏は、「社員に驚きや戸惑いが広がっていた。AIによって今の仕事がなくなるのかという誤解や、AIにドライというイメージがあったのか、営業担当者から『今のお客様に対して誠実に向き合わせてほしい』という意見も出た。急にAIをやると言われても自分の仕事の中で具体的に何をすればいいのか、イメージができない状態だった」と振り返る。

 そこで同社では社員の気持ちに寄り添い、現在のサービスや部門がなくなるわけではなく、AIを理解して使いこなせる人間になってほしいという社長のメッセージを丁寧に説明し、学びの必要性を腹落ちさせていった。

 そして西川氏自らが、率先してAI関連の「G検定」を取得するなど、社員に学ぶ姿勢を見せたことは、彼らの学びの意欲向上に大きく寄与した。会社として向かいたい方向性をトップが明確に示し、自ら努力するだけでなく、同じように努力をしてくれる社員に業務時間の2割を学びに充てることを許容し、研修費などの金銭的サポートや資格手当なども整備した。これにより社員の学び直しが進み、今では売り上げの半分以上をAIや3DCGなどの非印刷事業が占めている。

 社員が学ぶ機会として「研修」を設けている企業は多い。三重県津市に本店をおく百五銀行では学びと実務が直結する研修を実施している。

 22年、人事部人材開発課長の若林夏樹氏は行内のデジタルリテラシーを上げるべく、研修を企画することになった。だが、「数年前から行内でデジタル人材の育成という漠然とした議論はあったが、百五銀行で目指すべき具体的な人材像が見えていなかった」という。そこで、各部署などへのヒアリングを通じて、①デジタルコンサル人材、②アプリ化支援人材、③システム開発人材、④データ利活用人材と分かりやすく言語化することから始めた。

 それだけではない。研修が実務に直結するよう、内容を「体験型」にすることに徹底的に拘った。共に研修を企画した経営企画部IT戦略課課長代理の角賢二氏もその思いに共感し、「一般化されたテストデータではピンとこない。実務データを用いることでこそ自部署の課題として認識できる」と考え、実際のデータを使った研修を作り上げた。例えば、データ利活用の研修では、営業店に勤務する営業担当者が4カ月間、通常業務を行いつつ、「行内複業」(副業)として週1日は本部の行員として勤務する。本部では行内データの種類や活用方法について学んだ上で、融資や預り資産などの候補先リストを実際に作成し、その新たなリストを営業の実務で試すことで、成約率などの効果や活用プロセスについて検証を行う。つまり、4カ月かけてデータ利活用のPDCAを体験するのだ。体験型研修の修了生からは、研修終了後も新たな提案が出てきており、その成果に手ごたえを感じているという。

 ビジネス環境のめまぐるしい変化に対応するために、情報通信業界でも人材のスキルアップは欠かせない。


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