2024年4月21日(日)

Wedge REPORT

2023年5月23日

 富士通では20年より、国内にいる約8000人の全営業担当者を変革するプログラムを実施している。

「今までの当社の営業は寝技的でじわじわと関係性を構築するようなものも多かったが、自社の競争力を高めるには変わらなければいけないという危機感があった」とプログラムを主導したSkill Ownership Office長の岡田順二氏は言う。営業担当者を、製品を売るだけではなく、顧客の経営戦略を理解した上で、DXを駆使した価値提供できる「ビジネスプロデューサー(BP)」へと転換させるべく、BPとして必要なコンサル的な手法、デザイン指向、DXリテラシーを基礎から学ばせた。

 富士通ではこうした会社の方針転換に伴うスキルアップだけでなく、同時に社員の「自律的な学び」も促している。20年に学習のための社内ポータルサイトを大幅にリニューアルし、22年4月には「ジョブ型人材マネジメント」を一般社員にも導入した。キャリアオーナーシップ支援部長の伊藤正幸氏は「これまでは何かを学んでも出口が見出せないことが多かったが、ジョブ型になって一つひとつのジョブが明確になり、そこにチャレンジしたい人が、自分の時間やタイミングで挑戦できるようになった」と話し、制度と環境の両面を整えたことが社員の学びのモチベーションに繋がっているという。

 創業時から「学び」を重視してきた日本IBMでは個人の成長が企業の成長となるような仕組みが体系化されている。外資系企業であるため、人事制度は元よりジョブ型だ。人材配置については、企業の成長が念頭に置かれており、市場予測やビジネス予測に基づいて受け皿となるジョブをつくり、そこに人を配置するという考え方だ。

 ただ、企業の成長を目的とした人材配置では個人の望みに沿えない場合もある。「『会社のために』が全てにならないようにしている」と話すのは人事・タレント・ソリューション・ストラテジストの藤本亜子氏だ。企業と個人の目指す姿の交差点を「IBMで目指したいこと」と設定することで積極的な学びを促している。

 同社では13年より「THINK40」として年間40時間以上の学びの時間を確保することを推奨している。藤本氏は「時間数が意味を成すわけではなく、社員が自発的に学ぶ意識を持つことが重要だ」と話す。結果として社員一人当たりの学習時間は40時間を大幅に超えているという。評価制度においてもビジネスの結果という軸だけでなく、スキルという軸が設けられており、今あるスキルに驕るのではなく、新しいスキルを身に付け続けることを良しとする文化が評価にまで反映されている。

リスキリングを還元するために
経営者がまずすべきこと

 厚労省の支援制度上、提出した計画通りの研修を実施すれば企業は助成金を受給できる。だが、「助成金ありきのリスキリングでは労使それぞれが目指す姿にズレが生じやすい。企業がスキルを身に付けた人材をどう生かすのかを考えなければ有効にならないのではないか」と立教大学経済学部教授の首藤若菜氏は指摘する。

〝自前で〟取り組む企業の動きから浮かび上がるのは、リスキリングは「学ぶ」こと自体が目的ではないということだ。企業の戦略があり、そこに必要な組織や人材像を決めて、初めて習得すべきスキルが明確になる。そのストーリーをおざなりにしては、リスキリングは形骸化するだろう。

 デジタル人材の育成に詳しい千葉工業大学社会システム科学部教授の角田仁氏は「社員教育は経営者の一丁目一番地の仕事であるはずだ。リスキリングの正解は1社ずつ違うが、まずは自社の目的と求める人材像をトップ自らが考えることが重要だ」と述べる。

 福利厚生とは異なり、リスキリングが「企業の成長」のために行う人への〝投資〟であるならば、その投資が還元されるような経営戦略を考えることから始めるべきではないだろうか。

   
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Wedge 2023年6月号より
瀕死の林業
瀕死の林業

「花粉症は多くの国民を悩ませ続けている社会問題(中略)国民に解決に向けた道筋を示したい」

 岸田文雄首相は4月14日に行われた第1回花粉症に関する関係閣僚会議に出席し、こう述べた。スギの伐採加速化も掲げられ、安堵した読者もいたかもしれない。

 だが、日本の林業(林政)はこうした政治発言に左右されてきた歴史と言っても過言ではない。

 国は今、こう考えているようだ。

〈戦後に植林されたスギやヒノキの人工林は伐り時を迎えている。森林資源を活用すれば、林業は成長産業となり、その結果、森林の公益的機能も維持される〉

「林業の成長産業化」路線である。カーボンニュートラルの潮流がこれに拍車をかける。木材利用が推奨され、次々に高層木造建築の施工計画が立ち上がり、木材生産量や自給率など、統計上の数字は年々上昇・改善しているといえる。

 だが、現場の捉え方は全く違う。

 国が金科玉条のごとく「林業の成長産業化」路線を掲げた結果、市場では供給過多の状況が続き、木材価格の低下に歯止めがかからないからだ。その結果、森林所有者である山元には利益が還元されず、伐採跡地の再造林は3割しか進んでいない。今まさに、日本の林業は“瀕死”の状況にある。

 これらを生み出している要因の一つとして、さまざまな形で支給される総額3000億円近くの補助金の活用方法についても今後再検討が必要だろう。補助金獲得が目的化するというモラルハザードが起こりやすいからだ。

 さらに日本は、目先の「成長」を追い求めすぎるあまり、「持続可能な森林管理」の観点からも、世界的な潮流に逆行していると言わざるを得ない。まさに「木を見て森を見ず」の林政ではないか。

 一方で、希望もある。現場を歩くと、森林所有者や森林組合、製材加工業者など、“現場発”の新たな取り組みを始める頼もしい改革者たちの存在があるからだ。

 瀕死の林業、再生へ─。その処方箋を示そう。


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