2024年2月22日(木)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2023年6月5日

 台湾でTikTokやウイチャットなど中国のSNSアプリを禁止すれば済むのかといえばそうではない。

 台湾きっての認知戦の専門家である台北大学の沈伯洋氏はこのシンポジウムでこう語った。

 「民衆が中国を理解しておらず、対中警戒意識がないなかでは、中国のアプリを使うなとか中国産品を使うなといっても意味はない。先に対中警戒意識を作らないと抵抗はできない。中国がどうして認知戦や法律戦を着々と展開するのか、そこからどうやって自分を守ればいいのかを知ってもらわないといけない」と述べた。

 最近の例では、町内会長が住民を連れて中国を訪問し、中国当局からさまざまな便宜供与を受けて帰ってくるケースが目立つ。その町内会長は地元で中国がいかにいいところか「宣伝」に励むという利益交換が行われているという。だが、そこには違法性を見つけ出すことは難しいし、「善意の利益交換」としか言いようがない。

10%の人を狙う認知戦

 最近で中国が力を入れているとされるのは、現在の蔡英文政権の腐敗や暴力団との癒着を指摘し、一部の組織の利益を政権が優先させているという陰謀論的な情報だ。実際、過去に一部の民進党幹部に暴力団との交際歴がある人物がいたこともある。

 陰謀論の特徴は、まったくの事実無根ではないという点にある。マイナス情報を膨らませながら政権の負のイメージを拡大することで、中国は自らが敵視する民進党政権のダメージを狙っているのだ。

 認知戦は、すべての人の意見を変える必要はない。10%の人の認知を変えることができれば十分だとされる。

 100万人に拡散した情報が10万人に影響し、それが繰り返し波状的に広げられたとすれば、いつの間にか巨大な世論にも影響を及ぼしている。中国はそんな形で台湾に認知戦を仕掛け、敵視する民進党への不信が広がり、得票が伸びなくなることを期待しているというのが専門家の一致した見方だ。

 現在問題になっている前述のセクハラ隠蔽疑惑などについても、根拠や事実関係が不確かなさまざまな情報がいま台湾のネット上に急速に広がっているとされ、民進党のイメージ悪化に活用されることは間違いないだろう。昨年11月の統一地方選でも民進党の不調には一定の認知戦が効果を発揮したとの指摘もある。

 半年後の総統選挙に向けて、注目すべきは、その総統候補たちの行動や人気だけでなく、その世論に影響を与える中国による認知戦の実態からも目を離すべきではない。

   
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