エネルギー安全保障と脱炭素化の両立は容易ではない。両立に必要なエネルギー転換に伴うコストの上昇は、社会・経済に多大な影響を及ぼす。先進国でさえもエネルギー価格高騰には脆弱であり、政治的対応としての補助金導入が必要となった。低所得の途上国にとってエネルギー価格高騰のインパクトは遥かに大きい。したがってエネルギー転換に伴うコスト上昇をいかに抑制するかが極めて重要だ。
世界の分断に即したエネルギー転換も重要だ。再エネ・電気自動車(EV)・蓄電池などが急速に普及拡大すると製造に必要なクリティカルミネラル(重要鉱物)の需要が急増し、需給逼迫と価格高騰が発生する。クリティカルミネラルについては、資源や精錬・加工段階で、中国など特定国への供給偏在が存在する。エネルギー転換のあり方次第で、クリティカルミネラルという戦略物資において特定国への依存上昇という問題が発生し、エネルギーおよび経済安全保障の新たな課題となる。
エネルギー自給率が著しく低い日本は、世界の分断、地政学的な緊張、国際エネルギー情勢不安定化の荒波に晒され続ける。国内問題として、電力需給逼迫も顕在化しエネルギー安定供給確保は日本にとって最重要課題である。同時に脱炭素化の取り組みも手を緩めることはできない。まずは第6次エネルギー基本計画で示した30年のエネルギーミックス達成(電源構成で再エネ36~38%、原子力20~22%など)を目指し、「REPowerEU計画」に邁進するEUのように、最大限の取り組みを実施する必要がある。
脱炭素・安定供給・コスト削減
日本の最重要課題は原子力
50年のカーボンニュートラルに向けた抜本的な取り組み強化も不可欠だ。省エネ・再エネ・水素・原子力など全ての分野で課題山積だが、日本にとって、最重要課題の一つは、原子力に関わる問題である。安全性を確保した上で、再稼働を進め、既存炉の運転延長制度の見直しなどで有効活用が促進されれば、二酸化炭素(CO2)削減、電力安定供給、電力コスト削減の全方位を効率的に実現できる可能性がある。岸田文雄首相はその重要性を踏まえ、再稼働・運転延長制度に加え、小型モジュール炉(SMR)など次世代炉なども含めた新増設への取り組み強化を進めている。今後の成果に期待したい。主力電源化を目指す再エネについて、海外での有効事例を参考にしつつ、国内流通・供給体制の合理化なども進めることで発電コスト引き下げを図りつつ、供給不安定性への対応で必要となる統合コストも勘案した最適なシェア目標の追求が重要になる。さらに、エネルギーミックスの検討に当たっては、世界の分断を意識したクリティカルミネラルなどに関する経済安全保障上のコストやリスクも意識した検討が重要になる。
水素など新たなクリーン燃料に関わるイノベーションの追求も重要だ。イノベーションを伴うエネルギー転換の成否は、技術開発とその普及に関わるルールメーキングがカギを握る。エネルギー転換のための投資促進は産業政策でもあり、成長戦略でもある。日本にとって、世界との競争を意識し、昨年末にまとめた「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」の具体化と取り組み加速を進めることが急務である。