2024年12月22日(日)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年7月9日

 現在、メンタル不調により休職中の人は、「休職とは復職を前提とした解雇猶予」であると聞いたら、おちおち休んでいられない気分になろう。実は、会社はそう考えている。

(Filmstax/gettyimages)

 知らないのは、本人だけである。否、もしかすると、メンタルクリニックの主治医も知らないかもしれない。しかし、事業者と産業医は知っている、それはあくまで「解雇猶予」であるということを。

仕事のことを忘れて休んで大丈夫か?

 これは、患者にとって衝撃的である。主治医は「焦ってはいけない。まずは、ゆっくり休みましょう」と言った。確かに「仕事のことを忘れて、ゆっくり休みましょう」と言ったはずである。

 達成できないノルマを課せられ、実現できない納期を強いられ、パワハラで打ちのめされ、ついにメンタルクリニックを受診すると、医師はその人に「うつ病です。3ヵ月の自宅療養が必要です。そう診断書に書きます」と言う。そして、その診断書を会社に提出して、休職が認められたとき、彼の眼には主治医は救世主のように映るであろう。

 その救世主が「仕事のことは忘れましょう。治るまで気長に待ちましょう」と言えば、その通りにする。本当に「仕事のことは忘れ」、何もせずただ「治るまで気長に待つ」であろう。

 実際に、メンタルクリニックの医師もまた、「あなたのためを思えばこそ」という思いから「3ヵ月の自宅療養」の診断書を書いている。「このままではこの人は会社に潰される。自殺でもされないうちに、直ちに診断書を書いて休ませよう」、そう思う。つまり、主治医もまた「この人を救おう」という善意から療養を指示している。

 彼は、「救世主」との自覚は持っていないかもしれないが、それでも医師としての責任感と、「何よりも患者さんのため」という熱い使命感から、患者に休職を勧めている。この時、主治医も患者も、「この診断書の結果、休職が『当然の権利』として与えられる」と思っている。まさか、この診断書を会社が「病気で休めば、普通、解雇だ。でもまあ、診断書があれば猶予してやろう。でも、期間満了すれば、お引き取り頂こう」ととらえているとは思っていない。


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