国際標準は貧困率を毎年公表、周回遅れの日本
日本(15.4%)、米国(15.1%)、韓国(15.3%)の数値だけをみれば、その差は僅かだと抗弁することもできるだろう。しかし、この3国の経年変化の数値をみたうえで、「今後、どの国が貧困率を改善できそうか」という問いにどう答えるだろうか。
なお、先の木下論文では、米国では月次で貧困率の推移を追っていることが紹介されている(p.57)。韓国も、毎年、貧困率を公表している。
これに対して、日本の貧困率が更新されるのは、現状のままでは3年後になる。数字の根拠となる国民生活基礎調査が、3年に1度しか実施されないからである。
日本政府がEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の推進を掲げて久しい。EBPMとは、政府の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることをいう。
国際比較をするための基礎データを算出することもなく、月次どころか経年でのデータ収集さえ行わない。企業経営や税制の議論をする際に同様の対応をしたら関係者はそっぽを向くだろう。
国民生活基礎調査の過年度データに遡ってOECDの基準で貧困率を算定し直すことは、今すぐにもできるだろう。毎年度のデータを出すことも、他の国ができて日本ができない理由はない。
置き去りにされる「大人の」貧困
23年6月16日、岸田文雄政権は「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」を閣議決定した。
民間の立場で貧困者の支援に取り組む稲葉剛氏は、「包摂社会」「外国人との共生社会」「孤独・孤立対策」「こどもまんなか社会」などの美しいフレーズがちりばめられた政府方針を、実態の伴わない「SDGsウオッシュ」であると批判している(稲葉剛「日本政府の美辞麗句と『SDGsウオッシュ』」)。
骨太の方針を、「貧困」というキーワードで検索すると、該当するのはわずか2カ所である。該当する部分を紹介しよう(なお、もう1カ所は、沖縄振興・北海道開発などの地域振興において、基地跡地の利用やクリーンエネルギーなどと列記されているだけで、具体的内容はない)。
骨太の方針で触れられているのは、「こどもの」という形容詞のついた貧困解消の取組でしかない。そこでは、「大人の」貧困はないものとされている。
その内容を具体的にみていくと、就業支援、養育費の支払い確保、安心・安全な親子の交流といった「自助」と、こども食堂、こども宅食・フードバンク等への支援といった「共助」を表す言葉が並ぶ。
政府の責任を示す「公助」の言葉はどこにもない。これが、貧困率が先進国最悪となった日本の姿である。