2024年6月17日(月)

古希バックパッカー海外放浪記

2023年7月16日

原発は存在自体が悪なのだろうか、反原発という信仰

ピクトンのマリーナ。左奥のフェリーボートは北島のウエリントンとピクトンを一日一往復している

 筆者の印象では欧米人の多少なりとも意識の高い人達のなかには東日本大震災における福島原発事故はチェルノブイリを超える人類史上最悪の原発事故であり、日本の国土のかなりの部分が放射能汚染の影響下にあると思い込んでいる人たちが少なからずいる。

 筆者が「震災直後から放射能汚染拡散は封じ込めている。汚染水はタンクに貯めてから浄化処理しているので海洋汚染の心配はない。それゆえ日本人は福島県産の農産物や水産物も安心して食べている」とか説明してもほとんど納得しない。

 原発は危険な存在であり一度事故が発生したら自然も社会も壊滅して復旧できない厄災をもたらすものと信じ込んでいる。宗教やイデオロギーと同じで科学的根拠、具体的数値、客観的分析をいくら論じても彼らの反原発信仰は揺るがない。

フツウのドイツ人の原発へのスタンス

 ドイツは4月15日に最後の原発3基を停止して原発廃止を実現した。筆者はNZ旅行中の2月初旬から4月上旬までドイツ人旅行者と遭遇するたびに彼らの原発に対する意見を聴いてみた。累計10組以上の老若男女のドイツ人旅行者の意見は平均すると概ね以下のようだった。

  • ロシアのウクライナ戦争でエネルギー価格が高騰して国民の負担は限界にきている。
  • 原発廃止はドイツの国家方針であり基本的に賛成。
  • ただし、現在のエネルギー事情を考慮して原発稼働を若干延長することで調整するのが現実的だ。
  • そして、全員に共通していたことは太陽光や風力発電という再生可能エネルギーで必要な電力はカバーできるし、そうするべきだという根拠のない信念? である。ソーラーパネルや巨大風車がどれだけ環境負荷が大きいかというような疑問をぶつけてもキョトンとしているだけだ。

 原発廃止が先にありきで現実的かつ科学的なエネルギー政策の議論が置き去りにされているような危うさを感じた。

ドイツのインテリ・カップルの原発論

 3月21日。ラカイァ河畔のホリデー・パーク(キャンプ場)。終日雨。ダイニング・キッチンでベルリンから来た30代のカップルと一緒になった。男性はイラストレーター、女性はドイツ財務省のエリート官僚。

 例によってフクシマ原発事故にも関わらずなぜ日本政府は政策変更して原発再稼働に舵を切ったのかと責められた。筆者はエネルギー価格高騰により原発を再稼働せざるを得ないと説明。さらにドイツでもエネルギー事情は厳しいから原発廃止は非現実的ではないかと切り返した。

 女性はドイツの世論も60%近くが原発廃止を数年延期することを支持しており、政府も検討していると解説。他方で現在のシュルツ政権はドイツ社会民主党と緑の党の連立政権であり原発廃止延期の政治決断はハードルが高いと懸念。

ドイツの原発廃止論は信仰やイデオロギーなのか?

 ドイツの経済政策専門家の聡明な女性に「今まで科学的かつあなた自身が納得できる原発廃止の理由を聞いたことがありますか?」と念を押したところ、しばらく考えこんでから「安全確実な放射能廃棄物処理方法の目途が立っていないこと」とだけ回答。

 「フランスは原発堅持で変わらないし、中国・インド他のアジア諸国は新規原発推進、さらには米国でも新規原発が稼働する。つまり世界的に原発の安全性そのものについて科学的な統一見解は存在しない」と、筆者はドイツの原発廃止論が特異なことを指摘した。

 彼女はドイツ国内で原発廃止の科学的根拠を問うのは難しいと口を濁した。原発廃止が“絶対的正義”という社会の同調圧力が原発を巡る自由な言論を妨げているということらしい。やはり原発廃止は神聖不可侵な信仰なのだろうか。

以上 第8回に続く

   
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