2024年11月23日(土)

MANGAの道は世界に通ず

2023年9月2日

ビジネスに活きる「心理的側面」

 だがここでは、その劇的なプロットや、扱われているアイドル・現代芸能文化の奥深さ等ではなく、ビジネスに活きる「心理的側面」について触れてみよう。

 実は、誰しも大なり小なり、心的外傷(=トラウマ)を抱えながら生きているということが、近年の発達心理学にて実証されている。それが強い原体験となり、自身の行動原理に直結するのだ。だからこそ、自分がどのような重荷を持ち、それにより自身の性質や、どういった場面でどのような影響を及ぼしているかということを、認識していくことが重要となる。

 それらのネガティブな影響を総合して、発達心理学では「影(シャドー)」と呼称されている。

 まさに『推しの子』では、2人の兄妹において分かり易くそれらが描写されている。幼少期に、母親であるアイが刺殺された場面に居合わせたことで、この幼児2人は重い原体験=心的外傷(トラウマ)を抱えることになった。

 それにより、2人の生き様である「芸能界でステップアップする」という方向性も定まったわけだが、より具体的にはコミックス5〜7巻、「2.5次元舞台編」において兄のアクアが、「感情演技」(=自身が演じるキャラクターに深く感情移入し、それによって過大な演技を行う手法)を行うシーンで見てとれる。

 アクアは上述したトラウマにより、これ以上に辛い思いをしないよう、心を閉ざして他人に共感しないように生きてきた。だからこそ、感情演技を求められて吐き気を催し、気絶までしてしまうというアクシデントに見舞われる。

 これを最終的には、逆に有効活用し、「演技を楽しまない。苦しみながら芝居をする」という方向性に転化して、迫真の籠った演技を大成功させるのだ。

 心的外傷に対しての、根本的な解決や治療は行われていないが、「有効活用する」という分かりやすいシーンの一つである。

 コミックス8巻においては、それまでは天真爛漫だった妹のルビーが、新たな心的外傷が生まれ、いわゆる「闇堕ち」をしてしまう。自らの人生の目的は、復讐を果たすことだと改めて決心し、目的のために手段を選ばず出世していくこととなる。

 これらを一つの例としながら、多くの一般の人々にとっても、

・人前で笑われた記憶が悲しかったから、大人数を前に話すのが苦手である

・大学受験で努力をしても報われなかったから、「どうせ頑張っても無駄だ」と社会に対して斜に構えている

 などのように、原体験をベースに大なり小なりのマイナスの影響を及ぼすものが影(シャドー)である。

 自身を振り返ってみても、過去の記憶に紐づくそうした形質があることにお気づきにならないだろうか。すぐに思い出せる幼少期の出来事、ふと定期的に頭の中をよぎる記憶、がそれであることは多い。


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