2024年5月20日(月)

Wedge REPORT

2023年8月14日

 実際、不祥事を受けて公表された外部の弁護士からなる特別調査委員会の報告書を見ても、凄まじいほどの内容が盛り込まれている。まず、取締役設置会社にもかかわらず取締役会が開催された記録がなく、ガバナンスが全く機能していなかった。業務が拡大していく中で、正確な初期見積もりなどを行うための知識や経験を有しない者を工場長やフロントとして配置せざるを得ない状況が生まれるなどのずさんな経営が行われていた。

 さらにメディアで一斉に報道されたが、入庫時には存在しなかった損傷を、ゴルフボールを靴下に入れて振り回して車体に傷を付けて新たに作り出したり、ヘッドライトのカバーを割ったり、ドライバーで車体をひっかいて傷を付けたりなど刑法の器物損壊罪にもあたりうる悪質な行為が横行していた。

広がる業界全体への不信

 こうした事実を前にすると、なぜこんなことができるのかと、企業としての存在意義を疑わざるをえないほどだ。帝国データバンクによると、ビッグモーターの売上高は約5800億円と推定され(2022年9月期)、市場占有率も15%を占めるとみられるが、このくらい売上規模がある会社ならさまざまな監視の目が機能し、不祥事があっても発見・抑止される仕組みになっていることが期待される。

 しかしこの会社ではそれが全く機能していなかった。店舗前の街路樹が不自然に枯れている疑惑なども明るみに出て、自治体が調査に乗り出すなど、常識の欠如や遵法意識の低さに驚かされる。

 帝国データバンクの調査によると、これまで中古車販売市場は、2011年の東日本大震災以降、被災地を中心に需要が拡大し、近年は世界的な半導体不足による新車の供給減少や納期遅れなどで、割安で即時納車が可能な中古車の人気が高まっていた。需要の増加で仕入れ価格や店頭での販売価格も上昇したため、市場環境は好調だったといえる。

 しかし、今回のビッグモーター事件での中古車販売ビジネスへのイメージダウンは避けられず、業界への不信感から顧客離れも懸念されている。さらに、報道されているような損害保険会社を巻き込んだ保険金の不正請求は、契約者全体に影響が及ぶという意味で社会的にも見過ごせない大きな問題である。

 調査報告書や兼重宏行前社長の記者会見などをみると、不祥事の背景には、不合理な目標やプレッシャーがあったとしているが、過剰なノルマや従業員にプレッシャーをかけていた企業の多くが過去に不祥事を起こし、社会的に大きな批判を受けてきたことは、平成以降の30数年間をみても歴史が証明している。ビッグモーターはこうした教訓を学んでいないと言わざるを得ない。


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