脱サラ起業で成功し続ける条件とは
Q 連載してきた30年超の間、経済は浮き沈みを経験し、日本社会も大きく変わりました。毎月、勤め人や起業家に会い、インタビューしてきたと思いますが、その姿はどのように変わってきましたか?
溝口 私も出版社や広告代理店で10年足らずサラリーマンをやってきたが、その経験と比べて、現在は厳しいなと感じる。私のころは「サラリーマンは気楽な稼業ときたものだ」という歌が流行るほどだった。朝に出社して、お茶を飲みに行って、午前10時半ごろにやっと仕事を始めるといった形で、勝手気ままだった。それで給料も高かった。
対して今はそれこそ、必死に働かないといけない。同僚と戦って、出世競争の波に乗れないと、外れ者にされかねない。会社員といっても、個人事業主と変わらないくらい責任の持たされ方になっている。
会社のあり方も変わってきた。「物言う株主」が出てきて、会社が経営者と従業員が作るものでなくなってしまった。起業したくなるのも当然だと思う。
また、現在では、勤めている企業から奨励されて起業するという新たな形も定着しつつある。入った会社を辞めて起業するということが不思議ではなくなった。韓国ドラマでは、大企業や財閥に勤めることが一大目標としてよく描かれるが、日本ではもはやそうではない。若者が「良い大学」から「良い会社」という出世コースは進まなくなってきた。組織というものを冷静に見られる人が増えていったと言える。
Q 起業をしやすくなったと言っても、時代の変化の中で失敗してしまう人も多いです。そんな中で、印象に残っているのは、連載「さらばリーマン」を書籍化した際に、かつて取り上げた40人の起業家の全てが事業を続けていて、書籍への掲載を了承してくれたという話です。事業を継続させられる〝成功者〟にはどのような力が備わっていると言えますか?
溝口 まずは、着実な着眼点で、流行り廃りに流されずにどの分野で挑んでいくか決めている。それに、真面目に一生懸命、24時間自分の仕事のことを考え続けている。
人柄としては、一人として「俺は社長様だぜ」という人はいなかった。分をわきまえて、尽くすべき本分をわきまえて、日々精進している。そういう人が多かった。
30分も話せば、大体の人の感じがわかる。連載では、地方まで行って取材したけど、相応しくない対応をされて、「扱えません」と取り止めたこともあった。やはり、人柄や仕事に対する姿勢は重要だと思う。
Q 印象に残っている起業家は誰でしょうか?
溝口 今でも覚えているのは、東京大学を卒業し、キャタピラー三菱に入社し、退職した後に竹を材料に肥料やプラスチックに活用する企業を立ち上げた佐野孝志さん(19年2月号掲載)です。私自身も地方などへ行き、竹の繁茂がすごいことになっているなとは感じていたが、活用方法はシナチクや竹炭といったものの他にニュースは入って来ない。今、日本の田舎で困っていることをプラスの材料にして起業の発想にするのは偉い。
そうした内容は取材をしていても楽しかった。起業に行き着く道中が面白い。仕事内容としても面白さも感じた。