京都大学工学研究科の教授も務めた、ボンドエンジニアリング(大阪市)の木村亮専務取締役は「『建設業』と一口に言っても、ゼネコンや専門工事業者(サブコン)、設計会社、住宅メーカーなどさまざまで、全国津々浦々に47万社以上ある。会社の規模も事業内容も一律ではないのに、業界全体を一律に規制しようという発想に無理がある」と声を上げる。
旧態依然の業界体質
現場から上がる悲鳴
既に、現場では仕事が回らなくなる事態が起きている。ある建設会社の幹部は「公共工事でさえも入札が不調に終わることが増えた」と話す。「設計図書などを受け取るために入札前に申請をするが、その後札を入れないでいると『どうして入札しなかったのか』と電話で確認されたこともある。話は簡単で、発注者が見積もる予定価格では割に合わないからだ」(同)。
この証言は、2025年4月に開幕が迫る大阪・関西万博のパビリオン建設が遅々として進まない現状とも符合する。業界内からは「もはや万博は『25年には間に合わないので延期させてほしい』と正直に実情を訴えるべき時期にきている。勇気を出して声を上げることは業界の体質改善にもつながるはずだ」との声も囁かれる。
建設業界には、発注者から案件を受注した元請け会社をトップとした多重下請け構造が定着している。各社は受注した金額の範囲で少しでも利益を確保できるようやりくりし、工期も発注者の都合に合わせるように奔走するのが実態だ。
キャリアの中で、民間工事の発注者と元請け会社の双方を経験したある建設会社の幹部は「公共工事と比べれば、民間企業が発注する工事は、工期も工費も厳しくなる。民間の発注者は営利企業なので当然だし、自分が発注者の立場ならできるだけ安く仕上がるように厳しく対応せざるを得ず、まさに〝せめぎ合い〟が起こる」と苦笑する。
東京大学工学系研究科の権藤智之准教授は「建設業はよくも悪くも技術面や性能面での差別化が難しい。そのため、必然的に安さや工期の短さがものを言う世界になってしまう」と語る。
技能者の多くは、下請けや孫請けの中小零細企業の従業員や一人親方(個人請負)だが、そうした会社ほど、受注する工事は人間関係への依存度が高まり、多重下請け構造の中で薄利になりやすい。中小零細企業ほど、また、付き合いが長くなるほど、下請け会社側が強く交渉に出られないのは「案件を受注させてもらえなくなるかもしれない」と萎縮してしまう面もあるのだろう。
だが、窮状を訴えずに黙認していては、業界の構造はいつまでも変わらず現場が疲弊し続けるだけだ。元請け会社にも同じことが当てはまる。発注者に対して業界の状況を正しく伝え、下請けや孫請け会社を守ることも元請け会社としての責任ではないか。発注者に「このままでは自社事業が立ち行かなくなる」という危機感を持たせられるかが鍵になる。