建設業の危機は社会基盤の危機
他人事にしないためには
建設業界の担い手不足の要因は内側にもある。端的に言えば「業界の魅力の欠如」だ。
取材に応じた複数の建設会社の社員からは「現在の建設現場はあまりにも『技術』や『施工』と関係のない仕事が多い」との声が上がった。今行っている書類の作成や、ある作業に従事するための免許の取得は果たして必要なのか、本当にそれで安全が担保できているのか、と疑ってみることも重要ではないか。そうした小さなことを積み重ねることが、建設業界が抱える旧態依然の体質改善を促すことにつながるかもしれない。
また、静岡県伊豆の国市で生コン会社の長岡生コンクリートを経営する宮本充也社長は「民主党政権時代に『コンクリートから人へ』が声高に叫ばれたこともあり、建設業はネガティブな印象を抱かれやすい。災害報道で流れる映像も、堤防などの構造物が無力だったかのようなものが目立つ。だが、実際にはダムや道路、橋などのインフラがあるからこそ、地域の物流は機能し、人々の暮らしが守られている。そうした側面を建設業がもっとアピールしていかなければならないし、取り上げられる努力が必要だ」と指摘する。
「時間で稼ぐ」から「仕事(技能)の質に応じた対価をもらう」など、建設業界にある慣習も変えていく必要があるだろう。一方で、当たり前すぎて気にとめることは少ないが、生活の拠点となる住宅やオフィスの建設、メンテナンスをしているのも建設業で働く人々だ。社会基盤を支える彼らの貢献度は高い。それ相応の社会的地位の向上に取り組まずに放置すれば、必ずわれわれ国民にその〝ツケ〟が回ることになる。建設業の担い手不足は、誰一人、他人事でいられない。
建設業界は、大まかに「建築」と「土木」に分けることができる。建築が各種建物をつくるのに対して、土木は道路、橋梁など主にインフラとなる構造物をつくる。
本特集では、前半で「建築分野」における問題を取り上げ、後半では、発生後100年となる関東大震災において、将来を見据えたインフラ復興を描いた当時のエンジニアの姿を現在への教訓として紹介する。さらに、昨今急速に高まりつつある橋や道路などの社会インフラのメンテナンスのあり方、人材育成など、「建築分野」と両輪を担う「土木分野」の課題や今後のあり方を提示していく。
さまざまな建物やインフラがあって日本という国は成り立っている。その意味で、建設業は日本の国土そのものの機能を生み出し、守り、育てていく一翼を担う、なくてはならない産業である。2024年問題を入り口にして、日本の建設業を持続可能なものにしていくためには何が必要なのか、読者の皆さんと考えていきたい。