2023年12月6日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年8月30日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)、『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)などがある。

回復までは1年以上要するか

 筆者はこの状況を知り、11年前の2012年9月に中国全土で起きた大規模な反日デモのことを思い出した。当時、日本が尖閣諸島の国有化を決定したことを受け、中国政府は激しく反発。中国各地でデモが起きたのだが、その際、徐々に増え始めていた訪日観光客もピタリとなくなった。

 当時は現在とは異なり、団体旅行客が全体の7割を占めており、個人旅行客は3割と少なかった。中国人旅行客といえば団体といえる状況だったが、それがほとんどなくなってしまったのだ。

 団体旅行のビザ申請は旅行会社を介して行うが、政府がそれを止めていたため、団体客は来なくなったのである。つまり、団体旅行客は政府の意向に従わなければならないということだ。当時、まだ少なかった個人旅行客は、個人でビザの取得さえできれば来日することはできたが、それも大幅に減少した。

 当時、取材したある中国人はこう語っていた。

 「今はこういう情勢なので、日本旅行に行きたくても行けません。団体旅行ではなく、あくまでも個人の立場なので、日本に行くことは可能ですが、会社の同僚に言うこともできないし、社会全体に、日本に対する批判的な空気が漂っているから、今は出かけないほうが無難です。もし日本に行ったら、周囲からどんなにひどい言葉で罵られるかわかりませんから」

 そうしたこともあり、12年10月以降、中国人の訪日旅行は大幅に落ち込んだ。日本政府観光局の統計によると、12年9月は単月で約12万3500人の中国人が来日していたが、同月下旬に起きた反日デモの影響を受け、翌10月には7万1000人に、その2カ月後の12月には約5万2400人にまで減少した。

 1年後の13年10月には12万1400人とV字回復し、12年9月の水準へと戻ったが、これはつまり、いざ日中関係が冷え込めば、訪日中国人は大幅に減少することを意味している。また、いったん減少した観光客の回復には、このときのケースを参考にすれば、少なくとも1年の時間がかかるということである。


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