2024年12月22日(日)

Wedge2023年9月号特集(きしむ日本の建設業)

2023年9月10日

「Wedge」2023年9月号に掲載されている「きしむ日本の建設業 これでは国土が守れない」記事の内容を一部、限定公開いたします。

 今年6月2日、愛知県豊橋市には朝から大雨(浸水害)警報と洪水警報が発令されていた。家屋の浸水や自動車の水没など、甚大な被害をもたらした台風2号の襲来は記憶に新しい。市内全域に避難指示が出され、行政は住民に身の安全確保を呼びかける。そんな中、地域の建設会社に勤める社員が向かった先はいつもの職場だった。

愛知県を襲った台風2号は、家屋の浸水や自動車の水没など、甚大な被害をもたらした(PHOTO BY KYODO NEWS/GETTYIMAGES)

 「道路の浸水に備えて、朝からトラックに看板やバリケードを積み込み、現場に向かう準備をしていました」

 藤城建設(同市)の丹治考詞土木部長はこう振り返る。同社はこの日、県道69号豊橋乗本線の大江川に架かる鷺橋の担当で、行政からは実際に浸水したら通行止めにするよう指示を受けていた。雨脚は徐々に強まり14時30分頃、浸水が始まったという。

 「すぐに通行止めにしましたが、それでも通ろうとする車はいるし、『これくらいなら通れるだろ!』と文句も言われる。行政の職員が来ることはないので、実際に現地を見て状況判断し、対応を報告・進言します」

 当然ながら通行止めには「解除」が必要だ。翌朝8時頃、現場を訪れようとしたが、通常15分ほどの道のりに約1時間要した。「途中、あちこち浸水していたからです。現場付近も水は引いていましたが、信号は消え、浸水した車が放置されていました。これでは解除できないと行政に伝え、その日は片付けなどをしました。結局、解除できたのは4日になってからです」。

 藤城建設の従業員は約70人。3日間で延べ20人が対応した。「金曜から日曜にかけての台風で、受注している工事のほとんどが止まっていたので、それだけの人数をかけられました。もちろん、自分たちの工事現場の状況も気がかりですよ」。

 備えが〝空振り〟に終わることもある。「翌週にも浸水の可能性があり準備はしたのですが、現場に行かずにすみました。その場合は費用の請求はできないので、人件費は会社負担です。それでも『行け』と言われてから準備していたら被害者が出るかもしれない。だから夜中だろうと早朝だろうと、準備はします」。

 それにしても、避難指示が出る中、わざわざ危険と隣り合わせの現場に向かうことになる。家族は心配しないのだろうか。「心配してくれているとは思いますが、私も入社28年目。1年に何度かはこういうことがあるので、家族も慣れたんじゃないですかね」。


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