反撃能力を保有し、防衛費の増額に舵を切った一方で、放置し続けてきた問題が、国を守り、国民を守る人材をどう確保するかだ。国土防衛の1丁目1番地と言えるが、2022年3月末時点で、陸海空の自衛官は24万7000人の定員に対し23万人余りで、1万6000人ほどの欠員が生じている。
本来、組織は目的を定め、それを達成するために必要な人員を確保する。欠員が続けば、目的の達成が困難になるからだ。だが、自衛隊は発足以来、一度も定員を満たしたことはない。
今年4月には、18~32歳を対象に募集する任期制の自衛官候補生の採用数が、22年度は全国で9245人の採用計画に対し、入隊者がその半数にも満たなかったという衝撃的なニュースが報じられた。
「今年に入ってボディーブローのように効いてきた気がする。全国的に最低だった昨年の志願者数にもまったく届かない」──。自衛官募集の窓口である自衛隊東京地方協力本部(東京地本)の山下博二本部長(陸将補)は、厳しい現状をそう言い表す。昨年はロシアがウクライナを侵攻し、中国による台湾侵攻の可能性が指摘されるなど、戦争が現実に起こるのではとの懸念に加え、陸上自衛隊で悪質なセクハラ事案が発覚したこともあり、それらが志願者数の減少に影響すると予想されていた。だが、若者たちから多く聞こえてきたのは、戦争やハラスメント事案ではなく、自衛隊の仕事が「きつい」「厳しい」といった意見だったという。
本年度の自衛官募集ではウクライナ戦争などの影響は小さくなったと期待するも、自衛隊高等工科学校(神奈川県横須賀市)のオープンスクール(学校説明会)への参加申込者は昨年度の約750人から半分以下の約350人に激減した。同校は一般の高校に相当し、普通科教育のほか、陸上自衛官として必要な技術や知識を習得し、卒業後は部隊の中核を担う若者たちを育てる学舎だ。生徒は全国から集まり、保護者は自衛官という職業への理解や意識が高いのが特色でもある。「わが子が自衛官になることを、親がどう考えているのか。数字はそれを物語っている」と山下本部長は指摘する。これが「ボディーブローのように効いてきた」と語った理由でもある。
だが、自衛官募集の厳しさは今に始まったことではない。自衛隊にとって最大の脅威は中国でも北朝鮮でもなく、少子化に伴う募集難だと言っても過言ではない。募集の対象は18歳以上だが、文部科学省によると、現在の高校卒業者数は100万人で、1992年から半減している。さらに大学など高等教育機関への進学率が8割にまで達したことで、高卒で就職する若者は、92年の70万人から15万人にまで激減してしまった。