2024年11月22日(金)

Wedge2023年10月号特集(ASEAN NOW)

2023年9月20日

「中心性」が生んだ地域協力の輪
したたかな現実主義による外交

 ASEAN諸国と米中との距離感は国によって異なる。中国と領有権の問題がなく、政治体制と地理的環境から米欧からの投資を期待しにくいカンボジアとラオスは、親中的な姿勢を鮮明にして、中国への経済的依存を強めている。中国と南シナ海での領有権を激しく争うフィリピンとベトナムは、中国の進出に対抗すべく米国との安全保障上の連携強化を追求している。インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポールは、米中双方との関係を強化するバランス外交を基本としながら、近年は中国の海洋進出に警戒感を強めている。ミャンマーは、21年2月のクーデター後、西側との関係が断絶し、中国やロシアとの連携に傾倒している。

 一方、ほぼ全ての国に共通するのは、中国との経済的結び付きに利益を見出しながらも、地域の秩序を中国が主導することを望んでいるわけではなく、むしろ独立と主権を維持するために、米国が地域に深くコミットすることを望んでいることである。このため、米中どちらかを選ぶことは現実的な選択肢ではなく、双方との関係を均衡的に発展させながら、必要なときにはいずれかを牽制する。

 そうした考え方の一つの表れが19年6月にASEANが発表した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」である。これは、トランプ政権が17年に中国への対抗を念頭に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を打ち出し、日豪印もそれぞれの「インド太平洋」構想を掲げてクアッドの連携を進めたのに対し、ASEAN独自の「インド太平洋」構想として、中国を含む包摂的なコンセプトを提示し、地域における「ASEANの中心性」を掲げて、主導的な役割に向けた意欲を示したものである。

 ASEANはかねてから自身が基軸となって、米中を含む重要な域外国との多国間連携を実現する政策を推進してきた。それはASEAN地域フォーラム(ARF)、ASEAN+3(日中韓)、東アジア首脳会議(EAS)、ASEANと域外パートナーとの自由貿易協定(FTA)、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)といった地域協力を生み出す原動力となった。

 ASEANはこうした成果を「ASEANの中心性」の実現と謳ってきたが、米中対立に対しても、同様のコンセプトをもって、大国間の緊張を緩和し、二者択一を迫られるのを回避しつつ、自らの独立性の確保を打ち出したのである。

 中国の南シナ海での領土的進出に対しては、ASEANは一致したメッセージを出すことで対抗しようとしている。一国だけで中国に対抗することは不可能だが、10カ国がまとまれば中国も慎重にならざるを得ない。領有権問題を抱えない国も、主権と独立性の確保には最大限の配慮を払っており、団結することで得られる外交力を重視している。


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