2023年8月30日付のフォーリン・アフェアーズ誌(ウェブ版)に、アジア・ソサイエティ政策研究所の中国専門家のネーサン・レヴァインが「世界観の衝突:米国と中国はイデオロギー上の行き詰まりに達した」と題する論説を寄稿している。
米国と中国との緊張は先鋭化し、戦争に至るリスクが高まっている。根本的な問題は、両国関係をどう定義するかで双方が異なる考えを有しているからである。
米国は中国と大国間「競争」を行っていると捉えている。一方、中国は、関係を「競争」と捉えることは対立と紛争に至りかねないとして反対し、「相互の尊重」「平和共存」と捉えるべきとしている。
これは、単に言葉の争いではない。米中間の緊張と不信は、台湾や技術といった個別懸案に帰するというより、両国の世界観、イデオロギー、体制の正当性についての根本的な相違から来ている。だから、双方の軍当局間の危機発生時のコミュニケーション、核軍備管理といった簡単な措置についても話が進まない。
米国にとって、「競争」とは、両者とも繁栄することもありうるものである。一方、中国にとって、政治における競争とは、生きるか死ぬかの闘争である。中国共産党は「西側の反中勢力」が自由主義イデオロギーに基づいて中国を「西欧化し、分裂させ、カラー革命を起こして」、中国共産党を転覆させ、民主主義に転換させようとしていると捉えている。
中国も米国も相手の見方を容易に受け入れることはできず、それが外交上のやりとりを困難なものとしている。前記のようなイデオロギー上の相違があるからこそ、両者の関係がエスカレーションしないようにする「ガードレール」を設けることにも中国は躊躇を示した。
核兵器についての戦略的安定と軍備管理についての対話を中国が拒否したのもその一例である。気候変動、グローバルな食料安全保障等での協力でさえ、中国からは、意思を押しつける手段と捉えられてしまう。
このように米中両国はイデオロギーに起因する安全保障のジレンマに直面している。米国が、中国が、あるいは双方がそれぞれの世界観を調整し、同じ世界を共有するようになるまで、双方の努力で戦争を避けるという最後の段階を強固にするしか方法はない。
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米中関係については、多くの議論が提示されている。勃興する新興勢力とこれに不安を感ずる既存勢力との対立はしばしば戦争につながるという「トゥキディデスの罠」。衰える中国は強い中国よりも危険であるとの「ピーク・チャイナの危険」。レヴァインはこの論説で「世界観の衝突によって危険が生じる」という考え方を提示しているが、果たしてそうだろうかと思わせるところが多い論説である。