2024年5月22日(水)

家庭医の日常

2023年9月26日

 なお、帯状疱疹の急性期の治療に抗ウイルス薬を使用するとPHNの発症を抑制できるかについては、いくつかの臨床研究が相反する結果を出していて、判断は難しい。

帯状疱疹ワクチンとエビデンス

 PHNを予防する最も有効な方略は、帯状疱疹にならないことである。ということで、最後に帯状疱疹ワクチンについて書こうと思うが、これがなかなか悩ましい。

 現在わが国では、従来から水痘の予防接種に使われてきて16年から「50歳以上の者に対する帯状疱疹予防」の効能追加が承認された乾燥弱毒生水痘ワクチン(生ワクチン)と、20年から新たに販売された乾燥組み換え帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン)が使用できる。

 生ワクチンは1回の皮下注射、不活化ワクチンは2カ月の間隔をおいて2回の筋肉注射だ。保険が適用されない任意接種のため費用は自己負担となり、前者は約1万円、後者は2回で約4.5万円とかなり高額である。部分的に助成制度を設定している自治体もある。

 わが国の帯状疱疹と帯状疱疹ワクチンについて包括的に臨床研究のエビデンスを収載しているのは、国立感染症研究所の『帯状疱疹ワクチン ファクトシート』(2017年2月10日)だ。

 しかし、この『ファクトシート』は不活化ワクチン導入前のもので、不活化ワクチンについての情報がほとんどない。帯状疱疹とPHNそれぞれの発生抑制効果と副作用についても、両者のワクチンを比較するデータがない。

 現時点で厚生労働省のホームページを探しても、ワクチン関連の審議会等の資料や議事録などが掲載されているのみである。海外のデータに頼らなければならない。

必要な確かな情報提供体制

 この『ファクトシート』には、「帯状疱疹の基本的知見」として、「85歳の人の約50%が帯状疱疹を経験しているという報告もある」「80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験すると推定された」と書かれている。日本のいくつかの自治体や医療機関が、帯状疱疹ワクチン勧奨のための情報にこれらのメッセージを掲載している。これだけ多くの人(特に高齢者)が罹患しているのだから予防のためにワクチン接種をしましょう、ということだ。

 しかし、引用されている文献(前者は米国の医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』に掲載された総説、後者は宮崎県で行われた疫学調査の報告書)を読んでも、推計を裏付ける科学的データは見出せなかった。

 さらに、後者は皮膚科診療所と総合病院皮膚科を受診した帯状疱疹患者のデータを集計したもので、他科で診療された帯状疱疹のデータは含まれていない。23年6月の『糖尿病の新たなガイドライン 薬物療法はどこへ向かうか』でも書いたように、プライマリ・ヘルス・ケアの現場でのタイムリーな情報収集が重要で、患者が何か不調を感じて最初に相談する家庭医のレベルでのデータが継続して収集・集積される仕組みの構築が望まれる。

 K.O.さんが生活上の留意点を理解して抗ウイルス薬を内服することになったその日の診療の終わりに、私たちはこんな会話をした。

「先生、『四谷怪談』のお岩さんって帯状疱疹だったんですか」

「えっ。さすが国語の先生ですね、そう来ましたか(笑)。そう言ってる人もいますけど、どうなんでしょう。もしそうだったらお岩さんは大変な激痛で後遺症の神経痛もほぼ必発。人を呪うどころじゃなかった思いますよ。フィクションとは言え、気の毒すぎる人生です。K.O.さんは背中でしたが、顔面、特に目の周りにできた帯状疱疹は危険で、家庭医はすぐ眼科専門医へ治療を依頼しなければなりません」

「先生って、お岩さんにもやさしいんですね」

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