帯状疱疹は人から人へうつるのか
「帯状疱疹もウイルスで起きるなら、お義母さんにうつすんじゃないでしょうか。それが心配です」
「T.O.さんが水ぼうそうをしたことがあるんなら心配は要りません」
帯状疱疹患者の水疱液や気道分泌物(唾液を含む)に含まれるVZウイルスには感染性がある。したがってそれによってVZウイルスがうつることはあり得る。しかし、うつるのはあくまでもまだVZウイルスに感染したことのない人であり、感染した場合に発症する疾患は水痘(水ぼうそう)である。いきなり帯状疱疹になることはない。
前述の水痘抗体調査では、70歳以上の年齢群は一緒に推計されているが、抗体保有率は100%である。だから、たとえ93歳のT.O.さんに水痘をした記憶がなくても、今までVZウイルスに感染せずにいた可能性はほぼゼロと考えたい。
むしろ、K.O.さんの孫たちの水痘感染歴と予防接種歴は確認して、水痘に感染する危険がある場合には予防措置を徹底したい。また、どこで幼小児や免疫力が低下している人に遭遇するかわからないので、K.O.さんには、すべての発疹が痂皮化するまで(通常発症から10日)は不特定の人と接触しないようにしてもらうことが大事だ。
わが国では、2014年10月から水痘ワクチンが定期接種化され、1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日までの小児を対象に3カ月以上(標準的には6〜12カ月)の間隔をおいて2回接種している。
厄介な帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹の急性期の治療の主体は、VZウイルスの複製を妨害する抗ウイルス薬を通常7日間内服することである。発症後72時間以内に治療を開始することが推奨されている。
その治療効果は、痛みを全体的に軽くして、新しい発疹が出現し続ける時間を約12時間短くし、すべての発疹が痂皮化するまでの時間を約2日短くする。効果が意外とささやかだと思われる読者も少なくないだろう。
帯状疱疹の急性期の症状と並んで厄介なのは、帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia; 以下、PHN)と呼ばれる後遺症である。帯状疱疹の発疹消失後もそのデルマトームに沿った痛みが少なくとも90日間続く場合にPHNと診断される。炎症による神経の二次的な損傷が原因と考えられており、痛みは灼熱感や感電のようだと表現されることもあり、痛覚や触覚過敏を伴う。
帯状疱疹になった患者の約20%にPHNが発症し、その80%の患者は50歳以上という報告がある。PHNを起こしやすくする危険因子には、高齢、重度の前駆症状あるいは急性期の発疹、眼神経領域の病変、免疫抑制状態、糖尿病や全身性エリテマトーデスなどの慢性疾患が含まれる。
PHNの長引く痛みは、身体的機能と心理的なウェルビーイングに悪影響を与え、生活の質(QOL)を著しく低下させる。いくつかの薬物療法が推奨されているが、完治まで何年もかかる人もいるし、終わりが見えない闘病をする患者もいる。