回収する必要はあったのか
しかし期限表示は、社会に対する企業の「公約」ともいえる。企業が自己の都合でこれを守らないのは重大な信義違反だ。表示の書き換えは食品表示法第4条違反だが、法律違反でなくても、一度決めた期限を消費者に対して科学的な根拠と十分な説明もなしにこっそり変更することは企業としてあってはならない。
また、今回の書き換えは食品表示法違反ではあるが、自主回収が必須の食品衛生法違反ではないので、回収する必要があったのかも疑問だ。同社の「お知らせ」では「健康被害等のお申し出はございませんが、弊社では万全を期して、対象商品を自主回収させていただきます」とあり、消費者の健康のために回収するとの印象を与える。
しかし、冷凍スイーツの本来の賞味期限が来年2月とすれば、対象商品を食べたとしても健康影響が出るとは考えにくい。いったん消費者の手に渡った商品は、保存状態が不明なので再販売できないのはもちろん、フードバンクなどへの寄付もできず、廃棄するしかない。
食品ロスを考えれば、回収でなく、行政への報告と消費者へのお詫びでよかったのではないか。と同時に、自社の販売戦略で短く設定している賞味期限を商品に見合った期限に設定すべきだ。
「宣伝」のための賞味期限表示
冷凍スイーツの賞味期限は義務表示だが、シャーベットやアイスキャンディーなどの冷菓やアイスクリームは、表示を省略してもいいことになっている。冷凍保存されているかぎり品質の劣化が極めて少ないためだ。にもかかわらず、シャトレーゼや大手乳業メーカーの明治はアイスにも賞味期限を表示している。
明治がアイスの賞味期限表示を始めたのは2020年6月から。人気商品の「明治 エッセル スーパーカップ」は製造から最長24カ月を賞味期限とし、カップの裏面に表示している。
同社サイトのQ&Aでは表示する理由を「明治のアイスのおいしさはあんしんから。という考えのもとアイスを安心して楽しんでいただくため」と説明している。「安心のため」といえば聞こえはいいが、あえて表示をすることで他社と差別化したいということだろう。
賞味期限があるということは、期限が残り3分の1になれば店頭に並べてもらえなくなるということだ。「だからうちのアイスは新鮮です」と言いたいのかもしれないが、売れ残った商品をどうするのだろう。フードバンクやこども食堂に寄付すれば食品ロスにはならないが、本来は必要のない賞味期限をあえて表示することで自社商品を「安心」とアピールする手法はいかがなものか。