ASEANの中で地域ターゲットを特定したら、例えばその中で日本への訪問経験等で分類してアプローチしてもよいだろう。JNTOの資料によれば、タイの訪日経験者の半分近くが個人手配なのに対し、訪日未経験者の2割が団体ツアーで来ている。この傾向は他のASEAN諸国にも該当するだろう。自地域のマーケティング戦略の特徴に応じてプロモーションアプローチを選択することで効率的な働きかけができるだろう。
ASEAN企業から学ぶ姿勢も
本稿でお伝えしたいもう一つのパラダイムシフトはASEAN企業から学ぶことである。これまで日本はASEANの先生であるという考えがあったのではないだろうか? 確かに、まだそうした部分が残っているかもしれないが、これからはASEAN諸国、ASEAN企業から学び、協力することを強く意識する必要があるだろう。
1980年代には海外に旅行する日本人を対象に日系ホテルがシンガポールや他のASEAN市場に進出していた。昨今はその逆で、ASEAN諸国のホテルが日本に進出してきている。
例えば、タイの老舗ホテル、デユシット(Dusit)・インターナショナルはタイを拠点に世界16カ国で合計6つのホテルブランド(デュシタニ、デュシット デバラナ、デュシットD2、デュシット プリンセス、デュシット スイーツ、ASAIホテル)を持ち、300以上のホテルを運営している。デユシット・インターナショナルはこの2023年6月に京都に若者向けホテル(ASAI京都四条)を開き、9月1日に京都の西本願寺のすぐそばに最高級の旗艦ブランドである「デシュタニ」を冠する高級ホテル「デュシタニ京都(Dusit Thani Kyoto)」を開業した。
デユシット・インターナショナルは京都にカレッジもオープンするという。日本の観光業収入は約43兆円でGDPの7%前後であるのに対し、タイの観光業収入はコロナ前は3.3兆バーツ(約11.3兆円)でGDPの20%を占めていた。国家の旗艦産業なのである。
シンガポールのバンヤンツリー・グループは日本でスモールラグジュアリーホテルに特化して投資から開発、運営まで手掛けるウェルス・マネジメントグループと提携して22年6月17日に、京都市内に「ダーワ・悠洛(ゆら) 京都」と「ギャリア・二条城 京都」をグランドオープンした。また、フラッグシップブランドの「バンヤンツリー」を東山・京都と芦ノ湖・箱根にそれぞれ24年と26年に開業する予定だ。
これまで欧米系の外資系ホテルは、東京を中心に大都市での都市型ホテルを中心に展開してきたが、ASEAN系のホテルグループは地方圏にも目を向けている。これらのホテルは海外の富裕層、自国の多様な顧客を受け入れてきた経験・ノウハウを豊富に蓄積してきており、地方圏の観光産業事業者は、今後はこうしたASEANのプレイヤーから学ぶ姿勢も必要になってくるのではないだろうか。