狙うは「新興富裕層」
地方圏は膨大に中間層の観光客が来ても対応できない可能性が高いので、特定の国の少数の富裕層にターゲットを絞ってマーケティングアプローチを仕掛けることは一案である。そうは言っても少数の富裕層にどのようにアプロ―チすべきかわからない、もしくは多くの地域が富裕層をターゲットにし始めているので激戦になるのでは、という懸念があるかもしれない。そこで今回はASEANの「Emerging Affluent~新興富裕層」というターゲット層を紹介したい。
博報堂生活総合研究所アセアンが2023年6月に『Emerging Affluent~アセアンの隠れたセグメント“新興富裕層”を解き明かす~』という調査を発表している。通常ASEANを対象にしたビジネスでは、人口ボリュームの多い中間層を狙う場合が多いが、中間層から富裕層の間に存在し、自分の力で稼ぎ、豊かさや憧れのライフスタイルを手に入れ、中間層から上の社会階層に移行しようと努力を続けている新たな新興富裕層の存在に注目している。
新興富裕層は、中間層の中でも上位に該当する生活者(タイのバンコクでいえば世帯月収6万5000THB-15万0000THB(26万円~約60万円)程度の上位5~10%に当たる層)である。そこを今からターゲットにしてはどうだろうか?
同調査は新興富裕層の主な特徴を以下のようにまとめている:
■社会的背景
・経済的に厳しい環境で育った背景から【豊かさへの強い渇望】がある。
・同時に「神」や「運」など【見えざる手】を信じ、その存在が彼らに謙虚さを与えている。
■価値観・人生観
・収入や資産の多寡のみで測る「一次元的な”垂直型の目標達成”」ではなく、あらゆる事態に備え全方位的に自分と家族に必要なアセット(知識、スキル、貯蓄、保険、投資、不動産など)を増やし、生活基盤を安定・強固にしていく”水平型の目標達成”を重視。
・より良い生活レベル獲得への【強い決意】と、長期的で戦略的な人生設計を実行する【行動力】を持つ。
・富裕層のようにあえてトップを目指さない【戦略的ナンバーツー】。肉体や精神を消耗する競争を避け、【内的充実】を志向。
■消費行動
・「高級ブランド」「人気ブランド」などのイメージだけで買い物はせず、【最上級の機能性】追求と、所持品で社会的地位や信用が得られる【ステータス保証】効果を追求。
・自分のためだけの消費には罪悪感があるが、家族との絆を大事にするアセアンにおいては【家族のため】の消費は誇り。
■メディア行動
・【高い情報収集能力】と、集めた情報の周囲への【お裾分け】が得意。金融関連の情報収集にも積極的。
・他者から反感を買いづらい【家族のための消費】など、SNSでの批判を避ける【控えめな自己演出】。
豊かさを求め、家族とコト消費を楽しみ、謙虚さを持つという上記の特徴は日本の地方都市が地元特有の魅力を訴えてインバウンドの対象とすべきターゲット層に見える。そしてプロモーション能力や予算に限りがある地方としては新興富裕層の【高い情報収集能力】と情報の【お裾分け】は有難いのではないだろうか。