イスラエルは天然ガス生産国だが、今回の紛争により同国南岸沖のタマル・ガス田の操業を停止した。採掘されたガスはパイプライン経由でエジプトに送られ、その半分はLNGに加工され輸出されている。
操業停止に伴いエジプトでのLNGの出荷が停止し、入港したLNG船が不積みのまま出航を強いられたとの報道により、欧州の天然ガス価格は侵攻前より先週約50%上昇したが、その後価格は下落し10月23日には侵攻前の30%程の上昇になっている。それでも22年のピーク時価格の6分の1程度のレベルだ。
22年のエジプトのLNG輸出数量は8.9BCM(10億立法メートル)、約700万トンだった。世界のLNG輸出に占めるシェアは1.6%。主仕向け地欧州でのシェアも3.8%であり、数量面での影響はそれほど大きくない。
どうする日本
仮にホルムズ海峡封鎖などにより石油、天然ガス価格が上昇すれば、ロシアを利することになる。収入が増えるロシアはウクライナとの戦争をさらに継続可能になる。
産油国米国も原油価格上昇の影響を受けることになり、ガソリンが値上がりするだろう。車社会米国の消費者はガソリン価格に敏感なので、バイデン大統領の再選に影響を与えるとの見方も米国では出ている。
日本は石油の供給では中東諸国に大きく依存している。また、石油ほどではないがLNGでも中東への依存がある。主要国の中では日本の中東依存度は極端に高い。
万が一の時に日本は価格に加え、供給面で大きな影響を受ける。石油については約8カ月分の備蓄があるものの、問題が長期化すれば供給の問題と大きな価格上昇に直面する。ガソリン価格が値上がりすれば岸田政権を揺るがすかもしれない。
万が一の時の対応策は限られるので、紛争が長期化せずホルムズ海峡の封鎖がないことを願うのみだ。
故堺屋太一氏が第一次オイルショックを受け『油断』を著したのは1975年のことだった。その後エネルギー源の多様化によるリスク低減は実現したが、欧州はロシア依存、日本は中東依存から抜け出せず地政学上のリスクは残った。
これから世界は脱炭素に向かい、将来は水素と電気の世界になると考えられている。日本は水素の輸入も検討しているが、エネルギー安全保障に寄与する輸出国を良く見極めないといけない。油断は禁物だ。