中東依存度が減少した米国
米国は2000年代のシェール革命により急速に原油生産量を増やし、世界一の産油国になった。それでも消費量が大きく石油の輸入が続いていたが、22年に原油と石油製品の輸出量が輸入量を上回った。輸出数量は今年になりさらに増加している(図-8)。
米国内製油所がテキサス州などの在来油田の重質油を基準に設計されているので、サウジアラビアなどから重質油を輸入する必要がある。シェール革命前にはサウジアラビアからの輸入量は月間5000万バレルを超えることもあったが、最近では月間1000万バレル台に落ちている。
加えて、今年1月からはベネズエラ産重質油の輸入も再開された。同国への経済制裁も石油、天然ガスを中心に一部解除されたので、同国産原油の輸入量が増加すると予測される。今後米国の中東産原油への依存度は一段と下がると思われる。
迂回してロシア産石油を買っているEU
欧州連合(EU)の石油輸入相手国では、ロシアが最大のシェアを持っていた。ロシアのウクライナ侵攻直前の22年1月のロシアのシェアは31%だったが、昨年12月にEUが船舶によるロシア産石油の禁輸を開始したことから、23年第2四半期のロシアのシェアは4%まで落ちた。
ロシア産石油を大きく代替したのは、米国、カザフスタン、リビアなどであり、中東諸国もシェアを伸ばしたもののサウジアラビアが8.9%、イラクが6.2%のシェアを持つだけに留まっている(図-9)。
欧州市場を失ったロシアは、中国、インドを中心に制裁を科さない国への輸出を増やした。インドではロシアが最大の原油供給国となり、今年4月から7月のシェアは40%になった。貿易統計を見る限りロシア産原油の輸入価格は平均輸入価格を10%以上下回っている。
中国もインドも欧州向け石油製品の輸出量を増やしている。中東の産油国もロシア産原油を購入し、石油製品を欧州に輸出している。
なんのことはない、制裁の抜け穴があり依然としてEUのロシア産石油への依存は続いている。昨年2月の開戦以降10月下旬までに、化石燃料の輸出でロシアが得た資金は約5300億ユーロ(約85兆円)に達していると報じられている。
LNG輸出への影響は
日本向けLNGの供給国は豪州を主体にマレーシア、ロシア、米国などに分散しており、中東諸国への依存度は10%以下だ(図-10)。
ただ、日本はLNGの在庫を2週間程度しか保有しておらず、10%に満たない依存度でもホルムズ海峡が万が一封鎖されればかなりの影響を受ける。
欧州諸国はLNG輸入ではカタールに16%依存しているが、パイプライン経由で購入している天然ガス量が多く、すべての天然ガス購入量ではカタールへの依存は5%になる。
欧州は冬の天然ガス需要期に備え、域内の天然ガス備蓄を過去最高レベルまで積み上げている。中東への依存率が低いことに加え備蓄量が大きいので、ホルムズ海峡が封鎖されても、LNG供給では欧州は直ちに大きな問題には直面しない。
しかし、イランの介入あるいはホルムズ海峡封鎖などの事態があれば、LNG価格の上昇は避けられないだろう。既にエジプトからのLNG出荷減が天然ガス価格に影響を与えている。