日本の感染症の専門家が中心となって、COVID-19が急速に全世界に拡大しパンデミック状態になった時期に第1.0版を出版し(20年3月17日)、その後も頻回に改訂を繰り返して最新の情報を提供している。継続した努力に敬意を表したい。
読みやすいスタイルになっていて、共同意思決定(詳しくは、22年4月の『患者の意思に沿うため家庭医の卵が学んでいること』参照)の際に患者にあらかじめ必要箇所を読んできてもらうこともできる。さらに詳しく知りたい場合には、国立感染症研究所のホームページへと適宜リンクして参照できるので、とても便利でありがたい。
まえがきの『第10版 はじめに』には、「新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日に5類感染症へ移行となりましたが、高齢者や基礎疾患を有する方などにとって健康上の脅威であることに変わりはありません」とさりげなく書かれている。これまで感染対策の最前線で苦労した人ならではの重要なメッセージである。
COVID-19のパンデミックのグローバルな状況を視覚的に理解するには、『WHO(世界保健機関)COVID-19ダッシュボード』がお薦めだ。改めて、このパンデミックのインパクトを知ることができる。
重症化のリスク因子
「基礎疾患のある人が重症化しやすいってよく聞くんですど、具体的にはどうなんですか。うちには妊婦も高齢者も幼児もいるので、心配です」
「そうですね。確かに、テレビでも新聞でも、基礎疾患の全部を示すことはまれかもしれませんね。じゃあ『診療の手引き』を見てみましょう。確か表があったはずです。えーっと」
こんなふうに私は、患者と一緒に診察室のPCを使って情報を確認・共有することが多い。前述の『診療の手引き』の9ページの表2-1に、米国CDC(疾病予防管理センター)から引用した「重症化に関連する基礎疾患など」が示されている。また、10ページの表2-2には、日本の23年度COVID-19ワクチン接種対象となる「基礎疾患を有する方」が示されている(現在は令和5年秋開始のワクチン接種が行われていて、初回接種[1・2回目接種]を完了したすべての人が接種対象者)。
たくさんの基礎疾患などがあるので、自分や家族が該当しないか確認してほしい。なお、これらの表には含まれていないが、高齢者(65歳以上)は、ワクチン接種状況や他の基礎疾患の有無に関わらず、重症化のリスクは高い。
重症度はどう区別されるか
「じゃあ、コロナの軽症とか中等症とかって、どうやって区別するんですか」
「大事なところを質問してくれましたね。入院が必要かに関わる重要なところです」
COVID-19の死因は呼吸不全が多いため、重症度は呼吸困難と酸素化を中心に分類されている。そこで家庭医の外来診療や在宅診療では、症状と診察所見に加えて、酸素化の指標として酸素飽和度(SpO2)を参考にして軽症と中等症を診断する。SpO2は、動脈を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何パーセントが酸素と結合しているかを、パルスオキシメーターで指をはさんで皮膚を通して光の吸収値で測定したものである。