経営にあたっての心構えも興味深い。その一つに「商いの本質は繰り返しにある 継続して儲からなければ本当の利益とは言えない」という言葉が紹介される。一人のお客が繰り返して買い物をすることの積み重ねが真の繁盛につながるという含意である。現代風に言えばリピーターを生むことの大切さを指摘しているともいえる。
店と客が信頼で結ばれれば、新しい客を連れてくるようになるというのは、自分に置き換えて、客の側の経験からしてもわかりやすい。自分がいい店だと思う店は他人に紹介したり一緒に行きたくなったりするものだ。
そのためにはどうしたらよいのかという点については、毎日の挑戦の積み重ねや常に変わり続けることから実現するという。川を上るように漕ぎ続けることが重要だと指摘する。
顧客や従業員への心得
このほか、価格設定は商人哲学の反映と説く。「常にお客様の利益を守りかつ己の利益も外さない 正しい利益を生み出す不退転の売価を付けよう」という言葉は、お客と商人の双方が満足できる適正価格を付ける重要性を強調したものだ。この点も現代につながる課題である。
いわゆる「ステークホルダー経営」の重要性を説く部分もある。「従業員とは店を裏側まで知っているもっとも大切なお客様のことである」「従業員とは道具ではなく大切な家族 販管費やコストではなく価値創造の担い手である」という言葉などはまさにそれを表している。
現場のことをよく知っているのは現場の従業員であり、商人たる自分と同じ心を持つ「第二の自分」という倉本の考え方は、事業の大切な協力者であるという精神に貫かれている。従業員を家族のように愛情をもってしっかりと育てていく姿勢は企業経営に欠かせない。
さらに顧客の視点から考えることの重要性もあらためて指摘する。「売る身になって買うお客様はいないから 買う身になって売らなければならない」「苦情を言うお客様こそ 店のいちばん熱心なひいき客になる可能性を持っている」といった言葉は、客の心に寄り添い、隠れていた思いや願望を気づかせる重要性を強調する。実際、当初クレームをつけてきた客が、適切な対応によってその後得意客に転じた例は多くの企業で見られる。