2024年5月19日(日)

新しい〝付加価値〟最前線

2023年10月31日

松下幸之助の「250年計画」

 これまでのメーカーや小売業にはなかった発想と言えるのではないだろうか。需要を予測して、極力機会損失のないように生産する。もちろん、一般的な家電においては、今でもこうしたスタイルはとっているわけだが、この事業ではちょっと違う志向をもっているのだ。

「松下幸之助は90年前に『250年計画』を掲げ、250年後も企業として存続していくことの重要性とその道筋を示しました。パナソニックは2018年に100周年を迎えましたが、次の100年を考えたとき、我々は人中心の街づくりが重要であると考え、われわれモビリティ事業戦略室は『Last 10-mile』というビジョンを立てました。すなわち、これからの人の中心生活圏を半径10マイル(約16キロ)と想定し、その中の暮らしやコミュニティーを豊かにし活性化を目指すということです」(同)

 企業が行ううえで利益を出すことは当然求められるが、それだけを目的にしたものではなく、地域の経済やコミュニティーを活性化していくための新しい取り組みが「ハックツ!」なのだ。
「農家の中でも特に高齢の方には、集荷することで喜んでもらえています。これからは、品物を運ぶだけではなく、農家や生産者の方々が必要とする日用品を逆に届けることができるのではないかと思います」(芦澤さん)

広がる「ハックツ!」のビジネスモデル

 それでなくとも、2024年問題により物流インフラが逼迫するなかで、こうした無駄のない地域内での双方向の物流の仕組みは、移動距離の効率化やそれに伴うCO2削減にも貢献できるのではないか。「ハックツ!」のビジネスモデルは、都市部だけでなく人口減や就農年齢の高齢化が進む地方都市などでも応用できそうだが、実際にハックツに興味を示している自治体との間で協議も始まっているという。

 「ハックツ!が創り出す新たな仕組みは、日本の新しい生産活動・消費活動となり、それを新しい街づくりにつなげようとするものです。その実現に必要なのがその街に住む一人ひとりの想いであり、行動です。」(芦澤さん)

 自分自身の購買活動が生産者との関係構築に結びつき、その結果、一人の生産者が多くの消費者とつながっていく。「ハックツ!」を通じたコミュニティ形成や「コミュニティ消費」が新しい街づくりの原動力になるのか、今後の動向が注目される。

   
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