2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月17日

 10月12日、米国の2022年国防権限法案(2021年12月末に成立)に基づいて設置された「米国の戦略態勢についての議会委員会」による最終報告書が公表された。これにつき、フィナンシャル・タイムズ紙は10月13日付けで「米国は中露の核の挑戦に『準備が不十分』と報告書が指摘」と題する解説記事を掲載している。概要は次の通り。

(wildpixel/NATALIIA OMELCHENKO/ProVectors/gettyimages)

 超党派で構成された「米国の戦略態勢に関する議会委員会」は、米国が史上初めて二つの核大国(中露)に直面しているという挑戦に取り組むには「準備が不十分」であると警告を発している。

 報告書は、二つの核大国に対応するため、米国の核戦力は量を拡大するか、構成を変えるか、あるいはその双方を行う必要があり、米国はこの事態に対応するための「包括的な戦略」を欠いている、と指摘した。この警戒感の高まりは、多分に中国の核戦力の急速な拡大によって引き起こされたものである。報告書はそれが「1980年代後半に終結した米ソの軍拡競争以来、見られなかった規模とペース」のものであると指摘している。

 報告書は、既存の核戦力近代化計画は「必要であるが十分ではない」として、米国は「追加的な措置と計画を追求する」ことが必要としている。報告書は、中国において核関連のターゲットが増大していることに対応する必要があると勧告している。また、中国が長距離ミサイルを大量に配備することで米国内の核兵器に脅威を与えることができることも考慮すべきとしている。

 同委員会は、米国が生産計画を立てているB-21戦略爆撃機、空中発射型核巡航ミサイル、コロンビア級の核弾頭ミサイル潜水艦の数をそれぞれ増大すべきであると指摘している。また、同委員会は、アジア太平洋地域における戦域核戦力の必要性に対応すべきとしており、これは、アジアにおいて論議を呼ぶこととなろう。

 さらに、同委員会は、ロシアと中国の攻撃に対応するためのミサイル防衛にも更に資金を投じるべきとしている。同委員会は、超音速ミサイルによる攻撃に対処するシステムを開発する実現可能性を検討すべきとしているが、これは中国が2021年に地球を周航させた超音速ミサイルを実験したことを受けたものである。

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 この議会設置の委員会による戦略態勢報告書が作成されるのは09年以来のことであるが、今回の背景となっているのは「中露の二大核大国に直面」という新しい事態である。

 報告書は核戦力と通常戦力の双方を検討対象としているが、この核戦力についての内容は、これまでの米国の核態勢見直し(Nuclear Posture Review :NPR)に比して、どのような新たな方針を提言しているかが注目点となる。

 米国のNPRは、冷戦終結後、クリントン政権が1994年に行って以来、これまで5回行われているが、過去3回のNPRは、2010年のオバマ政権による核兵器の役割低減を目指したもの、18年のトランプ政権による「核の復権」を志向したと評されたもの、22年のバイデン政権によるものと、ジグザグな道を歩んできた。


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