内航海運では、基本的な耐用年数といわれる14年を超えた隻数が70%近くになっている。内航海運の登録事業者(運送=オペレーター、貸渡=オーナー)は大きく数を減らしている。2000年に3351社あったものが23年には1984社となった。人手不足だけが原因ではなく、「荷主が求める効率化」に応じるため「捨て身のコスト削減」をした結果だともいえる。
「船の操舵を現在のハンドル式からジョイスティック式にすれば、若手や女性もより短期で、より抵抗感なく習熟してもらうことができる。力仕事を減らす、船内での居住環境の改善など、まだまだできることはたくさんある」と、畝河内社長は言う。
内航海運船社には、環境対応という課題ものしかかる。外航などで使用される大型船では液化天然ガス(LNG)、エタノールなどへの転換が行われているが、内航のような中小型船では容易ではない。そこで20年10月、畝河内社長らは舶用メーカーなどと共に「内航ミライ研究会」を立ち上げた。ここでの検討の結果生まれたのが、「SIM-SHIP」だ。燃料に重油は使うものの、開発した大型バッテリーを積むことで待機中の生活電源を賄ったり、ロープを巻き取るウインチや大型のハッチカバーも油圧から電動に変えた。「危機感を共有することで1社ではできないことを皆で協力して実現させた」という。
日本発、世界発の技術
「無人運航船」
いま世界に先駆けたプロジェクトが日本発で始まっている。予算規模が100億円に上る「無人運航船プロジェクトMEGURI2040」だ。プロジェクトの取りまとめ役である日本財団の海野光行常務理事は「海事関係者だけではなく、通信、AI、商社など異分野の業界関係者まで参加していることに意義がある。〝自律運航〟ではなく〝無人運航〟という大きな目標を掲げることで、船員の人手不足に対応するだけではなく、業界全体の活性化につなげたい」と話す。
MEGURI2040のステージ1は、22年1月~3月の間にかけて「長距離、長時間(12時間以上)航行」「輻輳海域での航行(東京湾)」「全長200メートル以上の大型船による高速航行(時速約50キロメートル)」など、世界初の実証実験が行われた。
世界からの注目も高く、日本財団の元にはシンガポールの閣僚が情報を求めて訪れたという。
ステージ2では、25年までに無人運航船の実用化を実現させる。ここでは①離島航路におけるフェリーの航行、②コンテナ船の航行、③RORO船(荷物を積んだトラック、シャーシごと運ぶ)の航行が、予定されている。ここまでは既存の船に各種設備を付属することで無人化に対応する。
さらに、日本郵船グループで技術研究・開発を担うMTI(東京都千代田区)がリーダーとなって行う実証実験では、無人航行のための機器をフルパッケージで搭載したコンテナ船(700TEU〈=20フィートコンテナ700個分〉、全長134.9メートル)を新造するという力の入れようだ。
MTIの安藤英幸取締役は「新造船は25年に竣工する予定で、その後、半年間の実証を行うが、これは荷の入ったコンテナを積むなど実オペレーションに近い。第1ステージでは陸上からの遠隔操作において通信の不具合が一部見られた。そのため今回はより船側での自律性が求められることなる」と指摘する。
そしてMTIの鈴木英樹社長は「MEGURI2040は、船員の働き方改革につながる」と強調する。「船員不足を補うだけではなく、新しい技術を使うことで船員の負担を減らすことにもつながる。陸側で船をサポートするというように、働き方の幅も広がる。今は内航だけだが、必ず外航にも〝巡る〟意義のある取り組みになる」と意気込む。
一方で、無人運航船というこれまでにないものだけに、国内外でのルール作りが課題となる。
前出の海野常務理事は「長年の活動を通じて日本財団には、IMO(国際海事機関)をはじめ、各国の海事関係者とのネットワークを構築している。このようなネットワークを活用しながら泥臭く根回しをしていきたい」と話す。いずれにしても、「〝先進性〟を打ち出すことができれば、若い人たちの関心も高まる」と、期待を寄せる。最終的には40年までに内航船の50%を無人運航で行うことを目指す。