本間さんらは2009年度の報告書で、「当時のAF-2の使用がヒトの発がんリスクを上げる可能性はほとんどない」と結論づけています。
AF-2に関するこうした研究成果は、一般の人たちにはほとんど知られていません。AF-2は今でも食品安全に関する多くの書籍等で紹介され、「食品添加物は危険」「危ない添加物を私たちは知らずに食べさせられていた」という強固なイメージにつながっています。
自然毒による死者も出ている
AF-2は、人工的な物質である食品添加物が誤解されてしまった事例です。逆に、自然の怖さを感じさせる物質も、日本には多数あります。
「ニラと間違えてスイセンの葉を食べた」「行者ニンニクと間違えてイヌサフランを食べた」「野生の毒キノコを食べた」など自然毒により、過去10年で20人以上が亡くなっています。食品添加物や残留農薬での死亡事故は、この何十年も報告されていません。
林さんは遺伝毒性の研究者ですが、「ナチュラルミステイクを翻訳する過程で、植物が進化の過程でさまざまな二次代謝産物を作り人へのリスクになっていることに改めて気づき、驚いた」と語ります。
日本でも、健康食品による健康被害の苦情は多く出ています。厚生労働省は、特別の注意を必要とする成分を「指定成分等」とし、製品への表示や被害情報届出を義務づけたりしています。今のところ、コレウス・フォルスコリー/ドオウレン/プエラリア・ミリフィカ/ブラックコホシュが、指定されています。
単純な情報に踊らされないでほしい
森田さんは「××は危ない、○○は健康にいい、というような単純な情報に踊らされないようにしてほしい」と語ります。米国でも日本でも、意図して用いる食品添加物や残留農薬の規制制度は厳しく複雑です。
森田さんは今、内閣府食品安全委員会のいくつかの専門調査会で、リスク評価に携わっています。また、国際がん研究機関(IARC)にも専門家として加わっています。
「自然はよい」というような先入観に基づく根拠なき判断は許されません。でも、検討している内容が複雑であるが故に一般の人たちには伝わりにくく、「自然だから安全、健康にいい」に象徴されるシンプルな思い込みに負けてしまうジレンマを抱えています。
二人が共通して語るのは教育、情報提供の重要性。人工合成か自然か、で化学物質の性質を分けられるわけではなく、その物質をどのくらいの量食べるかによってもリスクの大きさが変わります。そうしたことを、子どもたちに教えたい。保護者にも伝えたいのです。
書籍「ナチュラルミステイク」は、米国の制度を説明し、食品の安全の判断の難しさ、誤解を多くの面から伝えています。日本語への翻訳にあたっては、米国と対比して考えられるように日本の制度の説明なども挟み込んでいます。
翻訳は、特定非営利活動法人 国際生命科学研究機構(ILSI Japan)食品リスク研究部会の会員が担当し、林さんと森田さんが監訳しました。ILSI会員の多くは科学者です。一般の人たちに、食品安全の考え方を見直すきっかけとしてほしい。そんな願いがこの本には詰まっています。
日本環境変異源ゲノム学会・寄稿文 AF-2物語
平成21年度厚生労働科学研究「食品添加物等における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究」
厚生労働省・自然毒のリスクプロファイル
厚生労働省・指定成分等含有食品との関連が疑われる健康被害情報について