ネタニヤフ首相にとってカタール資金をガザに入れることは「両刃の剣」であり、大きな賭けだった。うまく機能すれば、和平交渉は暗礁に乗り上げたままになり、パレスチナ独立国家を樹立させないようにできる。しかし、一方でハマスを管理できなければ、ハマスが牙をむいてくるかもしれないからだ。
首相の賭けを後押ししたのは甘い判断と過信だった。ネタニヤフ政権は「ハマスには大規模な攻撃を仕掛ける力はない」と誤った判断をし、仮に攻撃に出ても、ガザとの境界に設置した最新鋭の監視装置で事前に探知し、阻止できるとの過信を抱いた。ハマスによる攻撃の可能性があるとの情報さえ無視した。
現実味帯びる「戦争引き延ばし」
21年に短期間政権の座にあったベネット政権当時、特務機関モサドの長官らがカタール外交官のガザ入りに強く反対し、国連がカタール外交官に代わってカタール資金で燃料などを直接購入するやり方に変更された。この時の援助額は月3000万ドルに膨れ上がっており、すでにハマスは十分な資金を蓄積、イスラエル攻撃の爪を研ぎ始めていたとみられている。
ネタニヤフ首相がハマスを育成してきたのではないか、との疑惑に対し、首相は「馬鹿げた話だ」と一蹴している。だが、現実としてカタール資金をガザに流入させることを容認した決断がハマスを強力な組織にのし上げたことは確かだ。首相の賭けは失敗し、その代償はあまりに大きい。
首相にふさわしいのは誰かという最近の世論調査によると、ネタニヤフ氏はトップのガンツ元国防相に大差を付けられ、政治生命は消えかかっている。「ネタニヤフにとって唯一生き残る道は戦争をできるだけ引き延ばすしかない」(ベイルート筋)という見方が現実味を帯びてきた。
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