韓国に残る各地の郷校と書院は現代の受験地獄の源流?
7月27日。河南市郊外の“郷校”ヒャンキョを見学。解説員の女性Yさんによると、郷校は李氏朝鮮時代のエリート官僚の登竜門である科挙の試験合格を目的としたパブリックスクールとのこと。試験科目である儒学・朱子学を詰め込み教育したという。四書五経など儒教の古典を丸暗記することは大前提だったようだ。
河南の郷校の生徒は男子のみ40人ほど。20人ほどが貴族(両班=ヤンバン)の子弟、残りが平民の地主・有力者の子弟。半数近くが自宅から通学、残りは自宅が遠いため校内の寄宿舎住まい。
寄宿舎は二つあり貴族子弟と平民子弟に分かれていた。朱子学が説く身分上下関係は徹底しており、貴族子弟の宿舎は畳が敷かれ、平民子弟の方はむしろが敷かれていた。床の高さも貴族子弟の方が高く、敷居も高い。
Yさんによると郷校同様に各地にある“書院=ソウォンも”科挙試験合格を目的とするが、書院は地元の有力貴族が一族の子弟教育のために設立したプライベート・スクールとのこと。
Yさんの見解では、科挙の制度が現代につながる韓国社会の価値観を形成したという。現代韓国において一流大学から官公庁への就職がエリートコースとされ成功した若者が一族の誉れとされる風潮は科挙の時代からの伝統を継承していると指摘した。
歴代大統領の親族による不祥事は宗族制度の弊害か
韓国では、歴代大統領の親族が関与した汚職・不正蓄財という不祥事が後を絶たない。朱子学では身分の上下関係を墨守したが、その結果として祖先を明らかにする家系図が重視され、父祖と出身地を同じくする本貫・宗族と呼ばれる宗族集団が形成された。
日本でも徳川宗家、伊達家本家、織田家第何代とか歴史的家系は存在するが、一般庶民には縁がない。ところが韓国社会では現代でも脈々と宗族集団が活動している。
上記のソウルの宗廟では、現在でも李氏朝鮮王朝末裔である全州李氏宗家により祭祀が営まれている。そして毎年5月に宗家を中心に全州李氏一族数百人が宗廟に参集して祭礼祭が行われていると紹介されていた。
例えば、ソウル近郊の楊平郡の街角には、全州李氏大同宗約院楊平郡分院があった。社団法人『全州李氏大同宗約院』の本部はソウル市内にある。全州李氏は韓国最大の本貫・宗族であり韓国内に280万人(75万世帯)いる。そして33万世帯が『全州李氏大同宗約院』の登録会員となっている巨大全国組織であり各地に支部がある。親睦会、冠婚葬祭扶助など活動は多岐にわたるが費用は会費・寄付により賄われている。当然のことであるが選挙や就職やビジネスにおいて巨大ネットワークと人脈が活かされることになる。
南原市街には坡平尹氏南原地区宗親会があった。2015年のデータによると坡平尹氏は77万人の規模。ちなみに尹錫悦大統領の本貫も坡平尹氏である。
以上 第12回に続く