地方に蔓延する非正規の炭坑や鉱山は、中央にとってかねてから頭の痛い問題であったが、こうしたヤミ鉱山やヤミ炭鉱は地方の利益とも密接につながっているため、これらをなくすことは現実的には簡単なことではない。
そこで中央が目を付けたのがヤミ鉱山やヤミ炭鉱を資金の点から支えている民間金融(要するに地下銀行)の存在であった。
地下銀行に対する当局の戦いは、胡錦濤体制になって以降いくつかの局面で先鋭化したことがあるが、その度に中央が“現実”という厚い壁に阻まれ後退を余儀なくされることを繰り返した。というのも地下経済が支えているのは、一部の地方における資金需要だけでなく、実に中国の中小企業の6割に当たる資金需要を担っているからだ。そのため地下銀行に対する引き締めを行えば、たちまち経済そのものが悲鳴を上げるという現実に直面することになる。
そのため中央は硬軟対策の「軟」として地下の「表化」を推進してきた。つまり、一定の基準を満たせば地下金融を銀行に昇格させるというものだ。
そしてその一方でどうしても「表化」に従わない地下銀行に対して強硬な手段に出るという「硬」を実施したのである。それが2011年のことである。
地下マネーの動きが温州の地価にも影響
この余波で、温州市において企業経営者が大量に夜逃げするという現象が大きな社会問題になった。ここから地下マネーが大量に海外に流れ出すという現象が本格化したとされ、温州の地価はこの影響を受けて下落を続けている。
一方、地下がざわめき始めると表が連動するのが中国の1つの流れである。
もはや「中所得国の罠」と呼ばれる現実に直面したことが間違いない中国経済は、今後ゆるやかな下降局面に入ることが否めない。そして経済急成長という政権の正当性を担保する材料を失った中央が、富の分配に厳しい目を向けてくることは当然のこととして予測された。
その1つの現実こそ、冒頭で触れたぜい沢禁止令なのである。「ハエもトラも叩く」と豪語する指導部の掛け声の下、これまで浮利にまみれてきた人々が戦々恐々となっているのだ。そして当然のことながら、そうしたあぶく銭を安心な場所に移しておきたいという動機が鮮明になってきているのである。
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