2024年11月22日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2024年2月7日

度数規制だけでは不十分

 話は戻って、それではストロング系チューハイの度数を8%以下にするというアサヒビールの措置は効果があるのだろうか。

 「ウィスキーの度数が40%なのに、ストロング系の9%を問題にするのはなぜ」という質問をもらった。この疑問はもっともで、度数だけではなく飲酒量もまた問題である。

 例えば筆者はビールなら500㎖缶1本が限度で2本は飲めない。ウィスキーならダブル2杯が限度だ。財布のことも考えて、この程度に抑えている人が多いのではないかと思われるのだが、ストロング系チューハイの愛用者に聞くと、500㎖缶を2本、3本と飲むことがあるという。

 その理由は甘くて口当たりがよくソフトドリンク感覚で飲めること、そして度数が高いので急速に酔いが回り、自制が効かなくなり、「酒が酒を飲む」状況で飲みすぎてしまうようだ。100g近いアルコールの摂取が続くと健康に問題が起こるとともにアルコール依存症になる可能性がある。さらに甘みが強いチューハイを飲み続けると、甘いものが止められなくなる甘味依存症になる可能性もある

 このように、ストロング系チューハイの問題点は甘くて口当たりがいいこと、度数が高いこと、そして安価なことである。このような酒を開発したことは酒の売り上げには大いに寄与するだろうが、オキシコンチンと同様に消費者の健康を無視することになり、企業の社会的責任が問われることになる。

 その意味でアサヒビールの度数削減は改善の一歩かもしれないが、摂取量を抑えるためにはそれでは足りない。WHOは酒の飲みすぎを防止するために、酒が簡単に入手できないようにすることが必要であり、そのために税金を引き上げて、価格を引き上げることを提言している。この方法は喫煙の防止のために採用され、日本でもたばこの価格が大幅に引き上げられた。

酒税の引き上げという一つの方法

 現在の酒税は350㎖缶でビールが63.35円でチューハイが28円であり、2026年にはビールが54.25円へと引き下げされ、チューハイが35円に引き上げられる予定だが、それでもビールより安い。ビールに代わってチューハイが飲まれていること、そして国民の健康を守るためには飲酒量が少ない方がいいことを考えると、たばこ税と同様の考え方で、チューハイの税率はビール以上にすべきである。

 チューハイの税率を上げるべきもう一つの理由は、国の10の基本施策にある「飲酒による被害の発生防止」であり、そのために特に未成年者に対する「不適切な飲酒の誘因防止」を徹底することだ。ビール、日本酒、ウィスキーなどは初心者には飲みにくく、価格も高い。しかし缶チューハイは飲みやすさも価格もソフトドリンクと大きく変わらないことから若者の飲酒のハードルを下げて「不適切な飲酒の誘因」となっていることは疑いがない。

 たばこ税の引き上げには抵抗が大きかったが、国民の健康を考えると英断であり、その効果は出ている。チューハイの課税強化も抵抗が予想されるが、国民の健康増進、そして未成年者を飲酒の習慣に引き込まないために、ぜひ実現してほしい。

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