インドの親英エリート
20世紀に入るとアメリカが覇権国家となり、イギリス帝国は衰退し始めるが、興味深いのはインドとの関係である。1858年に直轄植民地としたが、独立までに約90年も要した。
「インドの独立が第2次大戦後の1947年まで延びたのは、親英エリートたちがいたせい?」
「インドに協力者(コラボレーター)がいたからですが、ここの表現は注意が必要です。これまでは英雄的民族主義者による独立、とされてきましたからね。けれど実際は、イギリスの“帝国臣民”になると多様な優遇策があった。だからインドのエリートたちは親英派が多く、独立まで時間がかかったのです」
独立を推進したガンディーやネルーも、当初はイギリス教育を受けた親英派だったのだ。
1944年、世界経済安定化のためブレトン・ウッズ協定が締結され、国際基軸通貨が英ポンドから米ドルへと変わった。
「それから現代へと到るわけですが、目下の重大事はブレグジット(EU離脱)?」
イギリスでは2016年から4人の首相を経て、21年1月より施行された。
「でも、コロナ禍もあって物価上昇や労働力不足など苦戦続きですね。23年7月調査では、国民の54%が否定的評価だとか?」
「EUを離脱しても地位は急には浮上しません。ですが当面ブレグジットは続くでしょう」
「ところで秋田さんは22年に登場したインド系のスナク首相に、かなり期待を寄せている?」
「グジャラート州出身の祖父がアフリカに渡り、ケニヤ生まれの父は帝国臣民、そして彼がイギリスでエリート官僚。スナク家はイギリス帝国のシステムをうまく活用してきました。現在のイギリスはアジア・太平洋戦略を掲げていますから、首相がインド系であれば大きなメリットになります。何しろインドは世界一の人口で経済成長著しく、しかもモディ首相はグローバル・サウスの代表でもあります。過去のインドとの歴史的交流や人的ネットワークを生かし、イギリスがある程度の復興を図ることは可能だと思っています」
旧覇権国家イギリスは、したたかだ。その軌跡から、日本が学べることは何かないのだろうか?
「うーん、残念ながら難しいですね。イギリス人なら家族が世界各地にいるのは当り前、国際変化に対応するメンタリティがそもそも違います。それと英語、イギリスの言葉は今なお世界共通語ですから」