2024年11月22日(金)

勝負の分かれ目

2024年2月20日

 羽生さんはアンコールに入る前のマイクパフォーマンスで、「やっと、ノーミスできたー」と収穫を口にし、満面の笑みを浮かべた。それだけ、思い入れが強かった。

 「アイスストーリーは改めてめちゃくちゃきついなと感じています。もともと(昨年2月に東京ドームで開催された単独公演の)『GIFT』は、1回公演だったということもあり、前半の最後の演目が、試合のプログラムでしたが、ショートプログラムだったのでまだなんとかやれたのかな、と思います。

 今回は、構想上、フリーとほぼ同じで挑みたいと思って(プログラムを)作っていったのですが、本当に大変でした。ただ、ツアーという形で、何回も何回も挑戦をさせていただくことによって、やっと『こういう風にトレーニングをしたら結果が出せる』という手応えみたいなものを改めて感じることができました。毎回、毎回レベルアップできるように、経験を積んで、より一層、技術的にも高い自分を見せていけるように(取り組んで)、(今後も)頑張れるんじゃないかなっていう希望を持つことができました」

 「破滅の使者」をミスなく演じきれたことに、さらなる進化の可能性を見出しているようだった。

 「試合みたいな感じになってしまいますが、『やっと練習が報われたな』と思いました。毎日3回通して3回ともノーミスして、みたいなことをやっていますが、(公演では)前半全てを通し切りながら、(会場内に流れている)映像の部分は、ひたすら着替えて靴を履いてみたいなことをずっと繰り返して、握力もなくなっていく中で滑るのとは全く違います。でも、こうした中でノーミスできたことは、改めて自分がやってきたことが正しかったんだと思える瞬間でもありました」

競技者時代よりも追い込んだトレーニング

 この日の羽生さんは、肉体を極限まで追い込んで滑っているようだった。公演の終盤では、激しく肩で息をし、ひざに両手を置くシーンも見られた。それでも、演じることはやめず、苦しい場面になるほど、自らを鼓舞するかのように激しい動きを見せているようだった。そして、羽生さんは千秋楽を万感の思いで終え、「達成感はありますね。やっぱり本当に」と胸を張った。

 競技者として臨んだ最後の大会となった22年北京冬季五輪から、すでに2年の月日が流れた。その影響力は大きく、佐賀県が、佐賀公演後に発表した経済波及効果にも表れる。報道によれば、2月16日に発表された試算額は約4億8210万円。県がこれまで試算した中で最高額という。

 プロという〝鎧〟をまとった羽生さんは、いまなお圧巻のパフォーマンスを演じ続けることができている要因は何か。人知れず、積み重ねてきた努力のプロセスを公演後の囲み取材で、少しだけ明かしてくれた。

 「今までの自分と比較しても、一番練習してきたんじゃないかなと思うことができています。食事面や睡眠、色々なことにずーっと気をつかいながら過ごし続けた日々だったので、それがある意味報われた1日でもありました」


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