2024年11月22日(金)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年3月5日

世界中の諜報機関が使用しているハッキングツール

 携帯電話の盗聴に関してイスラエルの技術は世界的に見ても秀でたものがある。

 ナスララ氏が指摘した携帯電話の盗聴は、イスラエルの情報部門であるユニット8200の退役軍人らによって開発され商用化されているスパイウェア「ペガサス(Pegasus)」によって行われている。ペガサスはnso Groupというサイバーセキュリティの会社から販売されており、各国の政府や法執行機関にのみ販売するとしており、イスラエル政府も重要な顧客の一つだ。

Pegasusの販売元nso Groupのホームページ

 ペガサスは携帯電話をハッキングし、電子メールや通話、テキストメッセージを携帯電話の使用者に気づかれることなく記録することができる強力なツールだ。携帯電話の電源のオン・オフの操作も可能とされているため、ナスララ氏が「金属製の箱に閉じ込めておくように」といったのもペガサスを指している。

 ペガサスの最新バージョンでは、AI技術が導入されており、大量の情報を迅速に処理することができる「AIターゲティングプラットフォーム」を使用することで、多数の携帯電話を監視することができる。こうした機能はイスラエル政府のリクエストに応じて追加されており、その見返りとしてnso Groupはサービスの大部分を無償で提供しているといわれている。

イスラエルが把握する〝携帯電話の動き〟

 イスラエルの携帯電話の監視について興味深いニュースがある。ハマスのイスラエルへの奇襲攻撃から4カ月以上が経った2月25日、イスラエルのテレビ局「チャンネル14」が新たな事実を報じたのだ。ハマスの攻撃が開始される数時間前の真夜中、ハマスの戦闘員数百人が一斉に携帯電話のSIMカードをイスラエル製に切り替えていたことが明らかになったというものだ。

 イスラエルの諜報機関は、ガザ地区で使用されている全ての携帯電話を追跡する能力を持っているとされる。どの携帯電話が地元パレスチナの通信会社によって提供されていないSIMカードかをリアルタイムで特定できるともいわれている。

 イスラエルの携帯電話監視ソフトは、ガザ地区でイスラエル製の未知のSIMカードがオンになった時に赤い警告ランプがつくようになっており、イスラエルの諜報機関はすぐに気づく仕様になっているといわれる。

 数千人のガザの住人は、10月7日まではイスラエル国内で働く許可を持っていてイスラエルのネットワークも自由に使えるのだが、10月7日の夜に数百台もの未知の携帯電話と不自然な位置情報は、明らかに何かの兆候を示していた。

 ハマスの奇襲攻撃が成功した要因として、イスラエルの諜報機関に情報が漏れないようインターネットなどの電気通信手段を一切使用せず、伝令をつかって対面で作戦を練り上げていたからだといわれている。そんな中、最後の最後に携帯電話を使用して連絡を取り合っていたことが明らかになったのである。

 イスラエル国防軍(IDF)とイスラエル公安庁(ISA)が、その日開催した緊急電話会議ではこの問題について言及されたが、いつもの演習だろうとの意見が大半を占めたため、上層部への報告は行われなかったようだ。

 IDFやISAはこれを否定しているが、警告ランプが点灯したにもかかわらず、この問題を軽視したのは明らかにイスラエル諜報機関の失態だろう。


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