2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年3月28日

 イラン側は、ウラン濃縮のモニタリングのために重要な機材の持ち込みを認めず、経験豊富な査察官を排除している。これではイランが核物質を新たな申告されていない核施設に搬入しても、それをIAEAが見つけることを期待できない。

 イランの核武装への野心にバイデン大統領はどう対応しようとしているのであろうか。ロイター通信によれば、(この事務局長の報告に対応して)英仏独の3カ国がIAEAの理事会でイランを非難する声明を出そうとしたが、「米国は、イランとの摩擦がエスカレートするリスクを取りたくなかった」ので反対した。まして、非難する代わりにイランに対して何かインセンティブを与える方法は全く間違っている。(註:昨年春以来、バイデン政権がイランの凍結資産の解除や石油禁輸の監視を緩めたこと。)

 グロッシ事務局長は、そのスピーチで2月12日のサレーヒ元イラン原子力庁長官の、「イランは、核兵器を製造するために必要な全てのコンポーネントを保有しており、後は組み立てるだけだ」という発言を引用している。バイデン大統領はこれまでやってきた以上の事をして、イランにこれ以上のエスカレーションをさせない必要がある。

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中東諸国への波及の懸念

 この3月4日付けのIAEA事務局長の報告は日本ではあまり報道されていないようだが、報告の通りIAEAがイランの核開発に対して継続的なモニタリングが出来なくなったとすれば、極めて重大かつ深刻な事態である。IAEAがイランの核開発を継続的にモニタリング出来ないということは、イランが極秘裏に核兵器を製造しても分からないということを意味する。

 昨年10月以来、出口が見えないガザの衝突に目を奪われてイランの核開発問題への国際的関心が薄れていたのは事実であり、今回、IAEA事務局長の報告によりイランの核開発問題はのっぴきならない状況になっていることが判明した。しかし、ガザの衝突が続く中で、11月の米大統領選挙で再選を狙うバイデン大統領がこのタイミングで新たな国際紛争を起こすことには消極的であろうからイランに対して強硬策を取る事は不可能であろう。


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