2024年12月7日(土)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2024年5月16日

ベンゾジアゼピン系薬剤の減らし方

 本稿では、選択的セロトニン再取り込み阻害剤などの抗うつ薬よりやめにくい、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬(以下「BZ系」と略す)について述べる。実は、抗うつ薬の方がはるかに断薬が容易である。身体の準備を整えるという点では、同じである。

 筆者自身に関していえば、ここ20年は外来中心の診療を行っている。年間に診る初診患者、そのうちBZ系薬剤がすでに入っている人の割合等から推測して、少なく見ても2000例、おそらくは、3000例近いBZ系減量の経験がある。

 BZ系からの離脱法を説いた通称『アシュトン・マニュアル』の著者であるアシュトン教授は、12年間にわたって300人以上のBZ系長期使用者を診てきたと言っている。それと比較すれば、筆者の経験量はアシュトン教授の10倍近い。

 日本が世界一のBZ系依存大国であり、そのなかから、BZ系をやめたい人ばかりが私のもとを訪れるので、こういう結果になる。そのせいもあって、経験を通してはなはだしく鍛えられることとなった。

減薬・断薬の際に注意すべきこと

 減薬を自ら試みている人はたくさんいるが、その場合、どの薬をどのようなペースで減らすかに腐心している。その一方で、肝心なことがおろそかになっている。それは、薬剤を受け入れる個体側の要因である。

 薬剤漸減時の離脱症状が強く出るか弱く出るかは、どの薬をどのペースで減らすかによってのみ決まるわけではない。むしろ、その時の体調のよしあしにかかっている。

 身体そもそもの状態がよければ、減薬による血中濃度の動揺へ柔軟に対応できる。したがって、課題は、薬剤減量という変化に対して、それを受け入れる身体の状態をいかに安定したレベルに維持できるかにつきる。

 以下に、そのための方法を記す。

<十分かつ安定した睡眠をとる>

 まず、減量中は、毎日、定時に起床、定時に就床して、7~8時間の睡眠を確保してほしい。

 必要な睡眠時間は、年齢、職業等によって異なるが、10代から60代までの日本人の多くは睡眠不足である。睡眠不足かどうかの目安は、平日と休日の起床時刻の差を見る。

 平日は目覚まし時計で目覚め、休日は目覚まし時計なしに目覚める人が多いであろう。その場合の平日・休日の起床時刻差が2時間を超えれば、寝不足である。その状態でBZ系の減量を試みるのは危険である。

 起床時刻差が生じるということは、睡眠と同期して動く自律神経リズムも動揺することを意味する。その分だけ、離脱期の自律神経系諸症状(不安、焦燥、動悸、頻脈、発汗、頭痛、嘔気など)が強く出る。

 もし、減量を試みるならば、その準備として起床時刻差が1時間以内、できれば30分以内に収まる程度に、平日の睡眠時間を延ばしておいてほしい。

 昼寝はしてもいいが、時間にして30分以内、タイミングとしては昼食と夕食の間にとってほしい。昼寝の長すぎ、遅すぎ、早すぎは、いずれも夜の睡眠を阻害する。


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