2024年6月18日(火)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2024年5月16日

<身体を動かし、適度な疲労を得る>

 睡眠は量(時間)とともに質が重要である。睡眠を深くする方法は、上記の通り、タイミングを合わせることだが、それにくわえて適度の肉体疲労を身体に与えることが有効である。肉体疲労は、睡眠周期の前半の徐波睡眠(深睡眠)を増加させる。

 ヒトの身体は、毎朝同じ時刻に起床することを繰り返せば、その17時間後に耐えがたい眠気を感じて、寝落ちするように設計されている。この17時間後の寝落ちを後押しするのが肉体疲労である。

 一方、睡眠の質を悪くする方法は、BZ系を服用することである。逆に、BZ系を減らせば、その分だけ睡眠は深くなる。ただ、BZ系は睡眠のスタートを切るうえでは一定の効果があるので、BZ系減量が寝落ちを悪くすることはあり得る。

 その分を補うべく、疲労による寝落ち促進効果を意図して、軽い運動を行ってほしい。肉体疲労のもたらす睡眠ほどに質のいい睡眠をもたらしてくれる睡眠薬は、いまだに開発されていない。

 ここでいう運動とは、スポーツを意味しない。歩くだけで十分である。一日2、3回に分けて、合計7000歩以上を目安にしていただきたい。

<アルコールを断つ>

 減量中は断酒すべきである。そもそも、精神科の薬物療法は断酒が原則であり、薬物療法中にはアルコールは一滴も飲むべきではない。

 『アシュトン・マニュアル』は、この点について甘く、「グラス1、2杯程度のワインは何らさしつかえない」としている。しかし、アシュトン教授は、「酒に強い」(専門的には、「アセトアルデヒド脱水素酵素の活性の高い」)コーカソイド(白人)、ネグロイド(黒人)を対象にしてこの記述を行っている。日本人にあてはめることはできない。

 アセトアルデヒド脱水素酵素とは、アルコールの分解産物で有害なアセトアルデヒドを速やかに分解する酵素である。モンゴロイドやアボリジニは、一般に、アセトアルデヒド脱水素酵素の活性が低いことが知られている。日本人は、アルデヒドが長く体内に貯留しやすい体質であり、「酒に弱い」ことになる。

 BZ系減量中は、自律神経系の症状が出やすい時期である。アルコールが睡眠の第三、第四段階(徐波睡眠、深睡眠)を減らし、睡眠の質を低下させることは、よく知られている。ただでさえ自律神経系の症状が出やすい時期に、あえて睡眠・覚醒リズムに影響を及ぼす物質を摂取するべきではない。

 ただし、毎日3合以上飲んでいるような場合は、まず、2合のみにして、1~2週間経過し、次いで、1合のみにして1~2週間様子をみて、その後、1合を1日おきにして、1~2週間経過してから完全断酒としていただきたい。BZ系の漸減を試みるのはそのあとである。

減薬・断薬は医師との共同作業

 本人が減薬・断薬を希望し、主治医がそれに応じない場合、通院先を変えるべきであろう。減薬・断薬は、医師との共同作業であるべきで、自己流で行うことにはリスクが伴う。

 それに上述した睡眠、運動、アルコール等生活習慣要因についても、好ましからざる生活習慣が定着してしまった背景に、その人にとっての事情がある。「十分眠り、十分歩き、酒を飲まない」、これだけのことを実現するだけでも、その課題をそれぞれの24時間に合わせていかなければならない。一人ひとりの人生は偉大であり、こころの健康とは、それを各自の人生と調和させる限りにおいて、意味がある。

 たかが減薬・断薬である。しかし、その程度でも医師・患者間の信頼関係に基づいて行われる必要があろう。

   
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