こうした市場状況だと、情報量や交渉力で劣る消費者は、高いおカネを払って粗悪品を購入してしまう(騙される)危険性を避けようと考えます。すると、優良品を適切な価格で販売している業者ではなく、比較的に安価で販売している業者を優先的に選んでしまうのです。結果、売上が落ち込んだ優良販売業者は市場から撤退し、中古車市場には安価な粗悪品ばかりが出回るようになるというわけです。
このように、情報の非対称性によって粗悪品(レモン)ばかりが出回るようになった市場のことを「レモン市場」といいます。アメリカの経済学者ジョージ・アカロフ(George Akerlof)が理論化し、後にノーベル経済学賞を受賞しました。
なお、このような現象は中古車市場に限ったことではありません。本来は買い手が売り手を選びますが、情報の非対称性によって、理想とは反対の選択(逆選択)をしてしまうのです。
また、このように「正直者が馬鹿を見る」というような状態が正当化されてしまうと、人々の「モラルハザード」(Moral Hazard)、つまり倫理観・道徳観の欠如をもたらす危険性もあります。
なくならない悪徳商法
このような情報や交渉力の差を、詐欺の手口として利用しようとする悪徳業者は後を絶ちません。悪徳商法とは、一般消費者を対象に、違法または不当な手段・方法が組み込まれた商法のことを言います。つまり、消費者を騙すような形で、通常よりも大きな利益を得ようとする商売のことです。
たとえば、会員が別の会員を勧誘するという連鎖によって商品を売りつける「マルチ商法」、催眠術的な手法を用いて消費者の購買意欲を煽る「催眠商法」などがそれにあたります。
とくに、台風、大雨、地震などの災害時には、精神的にも弱くなりがちで、それに便乗した悪質商法が多発します。最近では、新型コロナウイルスの感染拡大に関連して様々な悪質商法が見受けられました。身に覚えがない商品が届いたり、不審な取引の場に居合わせたりした場合には、警察に相談するなど落ち着いて適切な対処をしなければなりません。