2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年6月5日

 マクロンのメッセージの力は、彼の政治的困難と連動している。マクロンの実績を支持しているのは国民の3分の1以下で、彼の中道連合は国民議会で過半数を失った。6月の欧州議会選挙を前に、彼の穏健派陣営は反移民ポピュリストに差をつけられている。

 フランス経済は、ユーロ圏ではドイツに次いで第2位だが、債務と財政赤字の増大のなか困難に直面している。フランスの会計検査院院長は最近、フランス国債の債務返済額は過去3年間で倍増していると警告した。つまりフランスは、ウクライナ支援や防衛産業の強化、気候変動対策等のために資金繰りに奔走しながらも、今後数年間は赤字削減目標の達成のために数百億ドルの支出削減が必要になるということだ。

 マクロンは、今年初めに欧州のパートナーたちにウクライナに欧州軍を駐留させることを検討するよう要請し、圧倒的反対にもかかわらず撤回を拒否している。問題は、マクロンの考えに重みがないわけではないが、自らの地位が低下している大統領として、この時点での発言は欧州の将来をめぐる戦いにおけるかすかな一撃にすぎない。

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マクロン演説の意図

 マクロン大統領は、4月25日の演説で、ロシアのウクライナ侵略、米国の欧州への関心の低下、欧州の経済の停滞と反自由主義ポピュリズムの台頭により、欧州は消滅の危機にあるとの認識を示し、事態打開のため欧州が独自の安全保障政策を強化し、欧州経済の成長に向けての新たなモデルが必要だとして種々の具体的施策を提唱した。

 「欧州の消滅の危機」といった言葉で注目を引くのはマクロンの得意とする手法である。7年前にマクロンは欧州連合(EU)の将来ビジョンを打ち出したが、今回の演説はその後の国際情勢の変化を反映し、ロシアに勝利させてはならないとの認識を示し、米国に依存しない欧州独自の安全保障の枠組み構築を主張している。

 この演説は、現状分析は良いが、対応策については、昨年の総選挙以来、国内での政治基盤が弱体化し、言行不一致の傾向があり、特に2月の唐突なウクライナ駐留論で、欧州内の分裂を際立たせたマクロンに実現可能であるとは思えないと否定的な反応が見られた。この演説は、6月の欧州議会選挙を前に、ルペンらのポピュリズム勢力に大きなリードを許していることを意識し、ウクライナ支援やEUの結束の重要性を世論に訴えて巻き返そうとしたとの見方もある。


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