新しい医療経済論
日本の医療は質が高い──。平均寿命が長く、最先端の医療機器も充実している日本では多くの人がそう思っているだろう。確かにそれらも評価の一つではあるが、ごく一部にすぎない。実は日本の医療、特に住民にとって身近であるはずの地域医療は、その定義すら明確でなく、「質」の可視化もなされていない。医療経済学者である著者が、「病院中心」「高度医療中心」の考え方やデータ不足、質や費用のあいまいさなど、現状の地域医療の課題を徹底的に洗い出し、必要な処方箋をエビデンスに基づいてわかりやすく提示していく。日本の医療がいかに複雑で、不透明な状態かを思い知らされる。
仕事から見る人間史
本書は「他人のために働くのは敗者」で「創造力のある起業家が勝者」のような考え方に疑問を抱いた著者が、文化・社会などの背景を問わず、働いてきた人を正当に評価しようと書いた一冊だ。対等な関係にある者同士の水平な労働関係と、どんなルールで誰のために働くかという垂直な労働関係をその特徴として、平等に分け与えていた仕事の成果に傾斜がつくことや、男女の役割の変化の考察、さらには仕事以外の時間の使い方まで、人間の70万年をひもとく(上下巻)。
語られる本当の父
パルチザンとして壮絶な人生を歩んだ父が亡くなった。その葬式に現れた弔問客との話から、娘が今まで知らなかった父の生涯が浮かび上がっていく。連座制によって進学を妨げられた父の親族、高校を中退して父の友人となったベトナムにルーツがある少女─―。娘自身も「パルチザンの娘」として婚約を破棄された経験を持ち、父との関係を悩み続けていた。物語の終盤で「アカ」ではなく「親」としての父の姿が浮かび上がっていくさまには、思わず感動させられる。