2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2024年7月5日

 中国については図3の通り、ウクライナ侵攻前の21年にLNG輸入量を前年比16.5%と急増させた後、22年には一転マイナス14.9%と大きく減少した。23年は前年比4.9%と若干増加して978億㎥となったものの、21年の1095億㎥と比べると10.7%少ない水準である。

 輸入構成を見ると、豪州が最大で33.7%を占め、次いでカタールが23.4%、ロシアは11.2%で第3位である。図の通り、この4年間でロシアからLNG輸入を中国が大きく増やした事実はない。

 そして図4はLNG輸入にパイプラインによる輸入を加えたガス輸入全体の推移を示したものである。22年と23年に中国はロシアからの輸入量が増加しており、20年の108億㎥は22年と23年にはともに208億㎥とほぼ倍増している。

 上で述べた通り、LNGの輸入に大きな変化はないが、パイプライン経由の輸入量は大きく増えたということだ。「シベリアの力」と呼ばれる14年に建設開始され、19年12月に一部開通した新規パイプラインが本格稼働してきた影響によるもので、元々の計画でも22年に150億㎥、25年には380億㎥に供給量を拡大することが中露両国で合意されていたとされる。実績を見ると、「シベリアの力」パイプラインの建設は計画以上に進んでいると言えそうだ。

 要するに、パイプライン経由のロシア産ガスの輸入が拡大したのはウクライナ戦争の影響ではなく、元々の計画通りに開発が進んできた結果に過ぎないということだ。考えてみれば当然で、パイプライン敷設には何年もの時間を要し、一朝一夕に輸入を拡大したりできるものではない。LNGも受入ターミナル建設など、輸入条件を整えるためにパイプラインほどではないが、同様に一定のタイムラグが生じる。

 こうした理由から、ウクライナ侵攻に伴い、中国とインドがロシア産ガスの輸入を拡大したという事実は生じなかったし、原油と異なり、ロシアは欧州向けの需要喪失を他の地域に振り向けることができず、ガス輸出量は大幅に減少することとなったのであった。

エネルギー市場の荒波を乗り切った中国

 以上の分析から巷間よく言われる、ウクライナ戦争に乗じて中国とインドがロシアから原油・ガスを買い漁り、買い叩いて漁夫の利を得たという言説は、インドについては真実と言えるが、中国についてはやや誇張されたものと言うべきだろう。

 確かに中国のロシア産原油の輸入量は23年にサウジを凌ぐ最大のシェアとなったが、輸入量全体からみれば2割弱に止まる。20年から23年にかけてインドはロシア産原油の輸入量を7920万トン増加させたが、中国は2360万トンに止まる。

 インドはロシア産原油を買い漁ったという表現がまさに適当だが、中国については確かに少なくない経済的メリットを得たが、インドよりは穏当で抑制の効いた行動だったと言うべきだろう。ガスについては中国のLNG輸入にはほとんど変化はなく、パイプライン経由の輸入については増加したが、それはウクライナ戦争前に立案されていた計画が実行された結果に過ぎない。

 しかし実はロシア産原油・ガスを買い叩くという方法によらず、ウクライナ戦争による国際エネルギー市場の波乱を中国は巧みに乗り切った事実も指摘できる。それは主要エネルギーである石炭のエネルギー安定供給における役割の再定義をウクライナ戦争の直前に行っていたことが奏功したものであった。


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