着実に増える電力需要
これから、電力需要は増加すると見込まれている。日本では導入のスピードが遅いが、電気自動車の利用は徐々に広がり、電力需要を押し上げる。
輸送部門、産業部門で脱炭素のため水素の利用も増えるだろう。高炉製鉄が石炭コークスを水素に切り替えれば、水素の需要量は年間700万トン。全て水の電気分解で製造するならば、少なくとも3000億kWhの電気が必要だ。今の電力需要量を3割以上増やす。
AIの広がりも電力需要量を増やす。グーグルの1検索は0.3ワット(W)の電力消費だが、ChatGPTの1利用は2.9Wになる。
データセンターの電力需要の予測は難しいが、米国の電力研究所は、23年の需要量1521億kWhが30年には最大約2.7倍の4039億kWhに拡大し、米国の全電力需要量の9.1%になるとしている。
日本の現在のデータセンターの電力需要量200億kWhも同様に拡大するだろう。
必要なのは安定供給と競争力のある価格
16年の電力市場の完全自由化の目的の一つは、安定供給の確保だった。実際には、将来の電力価格が不透明になったので、発電設備を持つ事業者は、採算の悪い石油火力を中心に休廃止を進め、発電設備の減少を招き、結果供給は不安定化している。
再エネ設備の増加による火力発電の利用率の低下は、火力の採算をさらに悪化させている。自由化した市場で再エネ設備が増えれば火力設備が減少するのは自明の理だ。
容量市場はできたが、設備の新設は限られるだろう。設備を作れば収入はあるが、工費の増加、工期の遅れ、建中金利の上昇などの事業者のリスクは残る。リスクを取れる事業者は登場しない。
これから電力需要量の増加が見込まれる以上、政府は設備が新設される制度を早急に準備する必要がある。原発の建て替えを容認しても、制度がなければ事業者は新設には踏み切れない。
電気料金を抑制するためには、コストが安い石炭火力の廃止ではなく、当面の利用を考えるべきだ。
エネルギー資源を輸入する、再エネ導入の自然条件に恵まれない日本が、電気料金を抑制する手段は限られている。政府は、2050年脱炭素必達目標とするのではなく、温暖化問題をもう少し楽観的に考え、電力の安定供給と料金抑制に乗り出す時期だ。
生活と産業は、安定供給と低廉な電気料金に依存している。その見通しがないのであれば、エネルギー多消費型産業を中心に企業の海外流出が起こり、経済は疲弊する。今は電力の安定供給実現の正念場だ。