カプサイシン過剰摂取で健康被害
そもそも辛い食べ物のリスクを認識している人はそれほど多くないだろう。筆者自身、激辛のタイ料理を食べた後は必ずおなかを壊すのだが、だからといって激辛料理が他の料理に比べてリスクが高いと思ったことはなかった。
しかし昨年9月、米国で激辛チップスを食べた14歳の少年が死亡した事例があることを知り、考えを改めた。報道によると、少年は激辛チップスを食べた後に腹痛を訴え、意識を失って病院に搬送された後に死亡したという。激辛チップスと死亡の因果関係は明らかになっていないが、少年の父親は少年に持病はなかったとしている。
この少年が食べた激辛チップスには世界で最も辛いトウガラシのキャロライナリーバーが使われていた。キャロライナリーバーのスコヴィル値は160万SHU、日本の高校生が食べたポテチに含まれるトウガラシの1.2倍の辛さだ。
販売していた菓子メーカーは、激辛チップスを食べた後の反応をSNSに投稿するよう呼びかけるマーケティングを行っていた。この成果なのか、米国の若者の間で激辛チップスを食べてその辛さに悶絶する様子を撮影しTikTokでシェアすることが流行していたという。
激辛食品で健康被害が起きるのは、辛み成分のカプサイシンによる。カプサイシンは適量ならば食欲増進や体を温めるなど体にいい効果をもたらすが、過剰摂取すると胃の粘膜を傷付け、胃痛、胃炎、下痢などの症状を引き起こしたり、体の特定部位の血管を狭窄させたりする作用があることが分かっている。
米国のトウガラシの大食い大会で、キャロライナリーバーを食べた男性が激しい頭痛に苦しんだ事例が報告されているが、これはカプサイシンの過剰摂取によって脳につながる血管に狭窄が起きたのが原因とみられている。
カプサイシンによる味覚障害も報告が多い健康被害だ。辛いものを食べると舌が痛くなるが、重症の場合は舌の味蕾がマヒし、味覚障害が引き起こされる。また、カプサイシンに発がん性はないが、がん細胞と戦う免疫細胞の働きを弱めるとされ、がんを誘発する可能性も指摘される。
健康にさまざまな影響を引き起こす激辛食品だが、辛さの度合いの表示義務はない。高校生が食べたポテチは、18歳未満は食べないように警告しているものの、実際に18歳未満が食べた場合に法律に違反するわけではない。激辛であることはちゃんと伝えてあるので、「食べる場合は自己責任でどうぞ」ということなのだろう。