避難所や仮設住宅の用地選定は、災害対策基本法に基づき、市町村の地域防災会議で決定される。しかし、この会議に子どもやその代弁者となるNPOなどが参加する例はほとんどなく、多くの自治体では避難所や仮設住宅の用地として学校が慣例的に選ばれている。菅野さんは「戦前、小学校は堅固な建物として建設し、地域のコミュニティーセンターの機能を持たせました。最たる例が、避難所や投票所としての利用です。今では避難所の基準を満たす施設はたくさんありますが、過去の名残にしばられている。地域の将来を担う『宝物』であるはずの子どもへの配慮は全く見られません」と憤る。
珠洲市では、市内の11の小・中学校、小中一貫の義務教育学校のうち、10校の運動場が仮設住宅の建設(予定)地に指定された。その結果、子どもたちが自由に体を動かす場所は少なくなり、部活動や体育の授業もままならなくなったという。
同市教育委員会は2月より、学校周辺の耕作放棄地に仮設グラウンドを整備する可能性を探り、農林水産省や市の農業委員会と調整すると、農地法では非常災害の応急措置として農地転用制限の例外が認められていることが分かり、財政面は文部科学省と協議を進めた。地権者との交渉の末、市内7校近隣の耕作放棄地のグラウンドへの一時転用が決まった。同市教委事務局長の岸田和久さんは「これだけの大災害では準備をしていても対応が難しかった。ただ、平時よりさまざまな選択肢を考えておくことは必要」と話す。
阪神淡路大震災を機に発足
教職員を支援するEARTH
今回の震災では、今後のモデルケースとなりうるような事例もあった。
避難所の運営や割れた窓の処理、床に散乱する書類の整理……。被災地の教職員には大きな負荷がかかる。そこで、学校の早期再開に向け支援活動を行ったのが、兵庫県教育委員会の震災・学校支援チーム「EARTH」だ。EARTHは、阪神淡路大震災で学校の再開が遅れた反省を踏まえ、兵庫県の教職員で結成された組織。現在は238人が在籍し、平時には子どもを対象にした防災教育授業や地域の防災訓練との連携、年2回の全体訓練・研修会を、有事には被災地支援を行っている。
今回は延べ103人が珠洲市内の小中学校・高校に派遣され、子どもの学習支援や心のケアの他、図書室の本の整理・片づけや危険な通学路での登下校指導など、縦横無尽に活躍した。兵庫県教委指導主事の中森慶さんは「教員の本分は子どもにしっかり向き合うことです。被災地の教職員が早く本来業務に戻れるよう避難所や学校のニーズを傾聴し、要望に応えました」と振り返る。取材に応じてくれた複数の被災者や支援者は「全国的な取り組みとして広がってほしい」と口を揃える。
だが、兵庫県教委教育企画班長の粕谷良介さんは「EARTHのような取り組みは他の都道府県にはなかなか広がりません。教職員が一時的に本業を離れることになりますから、被災経験がない地域では理解を得られにくい。国による各自治体への働きかけが必要です」と話す。前出のカタリバの今村さんは「国が主導して、被災地の教育支援活動を行う『子ども版DMAT』を作るべきでは」と主張する。