2024年8月15日(木)

Wedge REPORT

2024年8月15日

線や面で子どもを支援する
わじまティーンラボ

 平時の子ども支援が、災害時に重要な役割を果たした例もある。

 5月中旬、小誌記者が輪島市内を取材していると、「こんにちは」と明るく挨拶する女子中学生がビルの階段を駆け上って行った。向かった先にあったのは「わじまティーンラボ」、NPO法人じっくらあと(石川県輪島市)が運営する子どもの居場所である。輪島市内の小学4年生から高校3年生が対象で、ラボ内の自習室や音楽スタジオ、卓球台などを自由に利用できる。

わじまティーンラボの開所式で行われたイベントには数多くの子どもが参加した(THE NIPPON FOUNDATION)

 不登校問題やSNSを使ったいじめなど、子どもが抱える悩みは年々複雑化し、見えにくくなっている。じっくらあとの理事長で小児科医の小浦詩さんは「家庭や学校以外に年齢が近い子どもたちが集える第三の居場所をつくることで、地域の中で『斜めの関係性』を築き、子ども支援の網をかけることを目的に創設しました」と話す。

 2年半の準備期間を経て23年12月24日にラボは本格稼働。しかし、1週間後に被災し、閉所を余儀なくされた。だが、ラボの活動停止期間中もじっくらあとは活動を継続した。冒頭のカタリバと連携し、輪島高校内に前出の「みんなのこども部屋」をつくり、1月14日から日中の子どもの受け入れを開始。ラボの利用者だった高校生が小さな子どもの遊び相手になってくれたという。小浦さんは「平時から地域の子ども事情に精通していたから、外部支援者の橋渡し役として速やかに子ども支援ができました」と話す。

 わじまティーンラボは3月26日に再開し、1日に15人程度の子どもが利用している。小浦さんは「被災当初の混乱の中、点として支援に入ってくれた外部団体には助けられました。それでも、仮設住宅への入居や学校の再開、二次避難先からの帰還など、子どもたちをめぐるフェーズが徐々に変わっていく中で、線や面で寄り添い続けることができるのが地元の団体である私たちの強みだと思います」と話す。

 福祉政策に詳しい高千穂大学教授の大山典宏さんは「子どもの居場所は災害時につくればいいわけではなく、恒常的にあるからこそ真価を発揮します。居場所づくりを担う地域のキーマンの掘り起こしが必要」と指摘する。また、日本財団公益事業部子ども支援チームの飯澤幸世さんは「ただ単に居場所の数が増えればよいというわけではありません。居場所には、『温かさ』や『居心地の良さ』という仕様書では規定できない要素が重要です。居場所の必要性や意義を理解する担い手が増えてほしい」と話す。

 日本の災害関連法制では、災害対応は基礎自治体の所掌とされている。しかし、ある地域にたまにしか発生しない災害対応のノウハウは自治体職員に蓄積されず、災害の度に混乱が起きてしまう。

 前出の菅野さんは「政府や自治体は小回りが利かないし、苦手分野もある。特に、子ども支援はNPOの得意分野です。災害関連法制を見直し、民間団体との連携を公的に位置付け、財政援助や部分的な権限移譲により、民間団体が活動しやすいようにするべきではないでしょうか。災害対応をマルチセクター化することで、『餅は餅屋の災害対応』を目指すべきだ」と指摘する。また、前出の大山典宏さんは「少子高齢化が進む中、災害対応に投じることができる人や財源は限られており、政策的なトリアージをせざるを得ない」と話す。やみくもに支援するのではなく、民間とも連携を深め、限られた人や公費を効果的に投じていくべきだ。

 今後も災害は必ず襲いかかる。今回の災害対応から何を学び、生かすのか。能登半島地震が残した宿題に解答することが「こどもまんなか社会」を掲げる国と大人たちの責務である。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る